青春映画はどこか屈折していた方がいい場合もある。
この作品の主人公は本当に屈折している。そこが魅力的だ。
「真夜中のピアニスト」(2005仏)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 不動産ブローカーをしているトマがこの仕事を選んだのは同業である父の影響だった。しかし、かつては著名なピアニストだった亡き母の元でプロを目指していた時期もあった。今ではすっかり暴力の世界に足を踏み入れているのである。ある日、偶然母の元マネージャーに再会する。オーディションの誘いを受けたトマは、もう一度ピアニストになる夢を追いかけ始める。ある縁で知り合った中国人ピアニスト、ミャオリンの元でレッスンを受けるようになるのだが‥。
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(レビュー) ヤクザ稼業に身を落とした青年が、ピアニストになる夢を追いかける青春映画。
暴力と芸術の世界、闇と光の世界。二律背反の相克は、本作のようなフィルムノワールの世界では、主人公を岐路に立たせる際によく使われる背景構図である。
そういう意味で凡庸な物語ではあるのだが、この映画はトマの視座を完全に固定していることもあり、彼の抱えるジレンマは見ているこちら側にスムースに伝わってくる。惜しむらくは、トマの二重生活の描写がマンネリズムに陥っている点である。展開にもう少し工夫欲しかった。
闇と光の世界はトマと両親との関係に重ね合わせることも出来る。
闇=父親、光=母親というふうに。
トマは闇の世界、つまり父の呪縛から解き放たれんと苦闘する。しかし、この闘いは初めから負けが決まっているように思えた。なぜなら、彼が求める光=母はすでにこの世に存在していないからである。
更に言えば、彼のピアノのテクニックはお世辞にも上手いとは言えない。そもそも長いブランクを経てすぐにプロになろうなんて無謀すぎる。観ていて実に悲壮感が漂う闘いに思えた。
彼の視座が固定されていることもあり、その心中は手に取るように分かった。青春のもがき、苦しみが常時続くため、万人が共感を覚えるのは難しいドラマかもしれない。しかし、一種のルーザー映画として見れば興味深く見ることができるだろう。
トマ役を演じるのはロマン・デュリス。決して美形な俳優ではないが、本作のような落伍者をやらせたら実にハマる役者である。不良の魅力とでも言おうか‥。他の俳優ではこの魅力は中々出せないだろう。そういう意味では、彼に支えられた映画という気もした。