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薄氷の殺人

寒々しい中で繰り広げられるロマンスとサスペンス。
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「薄氷の殺人」(2014中国香港)star4.gif
ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス
(あらすじ)
 1999年、中国の華北地方で、複数の石炭工場からバラバラ死体の一部が発見された。捜査に当たったジャン刑事は、被害者の妻ウーを訪ねる。嘆き悲しむ姿を見て彼は捜査に意欲を燃やした。やがて、トラック運転手のリウ兄弟が捜査線上に浮かび上がってくる。早速、逮捕に向うが、抵抗したために射殺してしまった。それから5年後。保安局に左遷されたジャンは、かつての同僚から5年前と同様のバラバラ殺人事件が2件発生したことを聞かされる。被害者はどちらも、前回の被害者の未亡人ウーと関係を持っていた。ジャンは独自に調査を開始していく。

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(レビュー)
 連続猟奇殺人事件を捜査する刑事と被害者の未亡人の関係を寒々しいタッチで描いたサスペンス作品。

 バラバラ遺体が発見されるオープニング・シーンから一気に映画の中に引き込まれた。その後、画面はジャン刑事と別れた妻のベッドシーンにオーバーラップし、夫婦関係の破綻を描いていく。死から生、そして再び死という転換が何とも刺激的である。と同時に、ここでは仕事一筋で家庭を疎かにしてきたジャンの素顔も見えてくる。実に手際の良いキャラクター紹介である。

 更に、場面は今回の猟奇殺人事件の捜査へと切り替わり、被害者の妻であるウーの聴取シーンとなる。ここまで映画は一気に突き進み、ジャンとウーの出会いが描かれる。つまり、この映画はサスペンス映画として出発するが、その後は妻から見放された男と夫に死なれた女、孤独な男女の交流を描くロマンス映画的なテイストを織り交ぜながら展開されていくのだ。このことを早々に提示した序盤の展開は見事である。

 その後、捜査は急ピッチに進み、ジャンは容疑者の逮捕に急行する。しかし、ここで銃撃戦となり容疑者を射殺、事件は謎のままで終わってしまう。

 物語はここから一気に5年後に飛ぶ。同じ手口を使った殺人事件が発生する。前回の事件で失態を演じたジャンは左遷され、今では保安局の指導員となっている。そこに元の同僚から声がかかり、彼は再び事件の捜査に当たることになる。ここでジャンは5年前の被害者の未亡人ウーと再会する。彼女が今回の事件にも関与していることを怪しみつつも、ジャンはウーに惹かれていくようになる。

 これは完全にフィルム・ノワールの定型にハマった作品だと言うことが出来る。こうした人物設定、ストーリーは確かに目新しくはないが、安定した面白さがあり、見ている方としてもジャンの目線になってドキドキしながら見ることが出来る。何より小気味よく進むストーリーが見てて飽きさせない。

 そして迎えるクライマックス。ウーにまつわる過去や、事件の背景に隠された謎が徐々に解き明かされていく過程には興奮させられた。二転三転するプロットもよく考えられていると思った。

 また、事件を捜査するジャンと事件の渦中にいるウーの関係が、どんどん悲劇的な方向に突き進んでいく所にも見応えを感じた。端的に言えばメロドラマと言うことになるが、この”絶望感”には哀切極まってしまう。おそらくジャンは刑事としてではなく、一人の男としてウーを最後まで愛していたのだろう。しかし、彼の愛は彼女には届かない‥。そこに抒情性が沸き起こってくる。月並みな言い方になってしまうが、実にビターな”大人のロマンス”である。

 尚、本作は基本的にはシリアスな映画であるが、ジャンの保安局での働きぶりや、トラックで体を売る娼婦、殺害現場に住む夫婦の困惑といった所に小さなユーモアを織り交ぜている。大変重苦しい映画であるが、これによって見る側の”ゆとり”みたいなものが少しだけ生まれるのが良い。このあたりのさじ加減は中々上手いと思った。

 ただし、一方でこうした奇をてらった演出が邪魔になってしまっている個所が幾つかある。例えば、ジャンのダンスなどは見てて理解に苦しむ場面だった。ラーメンの中に目玉が入っているのもブラック・ジョークが過ぎる嫌いがある。今回の猟奇殺人事件との関連も説明されていないため、単なる悪趣味に思えてしまった。

 監督・脚本は「こころの湯」(1999中国)の脚本で注目されたディアオ・イーナン。今作が彼の初監督作品である。
 「こころの湯」は朴訥としたハートウォーミングな作品だったが、その彼がこれほどシリアスなドラマを手掛けるとは正直驚きである。ただ、「こころの湯」は共同脚本だったので、こうした人間の悪心を突くような”厳しさ”は元々あったのかもしれない。

 まず、脚本については、最後まで息の抜けない展開を見事に完遂していて感心させられた。軽快なテンポで進む所も良いし、事件のどんでん返しもよく考えられていると思った。ただ、先述したように説明に舌っ足らずな個所があるのが難である。

 演出については、基本的にはオーソドックスに整えられている。但し、先述のジャンのダンス・シーンのように、時々奇抜で意味不明な演出が出てくるので、見ている方としては少々戸惑ってしまう。他にも、終盤のグー、チョキ、パーの意味も完全に訳が分からなかった。
 この監督は他にも常道を外すような演出をしてくる。例えば、ジャンがバイクを盗まれるシーン。脇役の主観でシーンが進むので、最初に見ただけでは何が起こっているのかよく分からない。そこがユニークと言えばユニークなのだが、果たしてそこに何の演出意図があったのか‥というと少々首をかしげたくなる。
 また、ラストは確かに感極まる良いシーンだが、演出が過剰なのが難である。犯人がアイスシューズをこれ見よがしにぶら下げて歩くのも然り。サスペンスとしては脇が甘い演出だ。

 ただ、こうした過剰さ、舌っ足らずな演出はあるにせよ、作品全体を寒々しいトーンで統一した所は大いに評価したい。映画序盤は季節が夏だが、物語の舞台が5年後に移ってからは極寒の中でドラマが展開される。この寒々しい風景は孤独なジャンとウーの心象を表したものであるし、事件そのものの冷酷さを見事に浮き立たせることに成功している。温もりや幸せといったイメージが一切ない所に、このドラマの厳しさも実感される。

 また、鉄橋のシーンの虚無感、ジャンとウーが夜の観覧車に乗るシーンの背徳感も素晴らしかった。
 特に、後者は色彩、音響が秀逸である。全般的に本作は夜のシーンにおける照明効果が素晴らしい。この監督はフィルムノワールの特質をよく知っているな‥と思った。更に、ここで特筆すべきは音響演出である。観覧車の鉄のきしむ音は二人の錆びついた心がこすれ合う音なのか‥?忘れられそうにない。

 キャスト陣ではウーを演じたグイ・ルンメイに魅了された。感情を喪失したような表情はどこか冷酷的であり、どこか男心を引き寄せるような魅力も持っている。喪失感で押し通した所は確かに一本調子とも言えるが、心の動揺を微妙な表情の変化で演じた終盤は中々良かった。
[ 2015/02/11 00:38 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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