少年の12年に渡る成長をリアルタイムで切り取った実験的作品。
「6才のボクが、大人になるまで。」(2014米)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) テキサス州の田舎町。6歳の少年メイソンは、母オリヴィアと姉サマンサと仲睦まじく暮らしていた。父メイソンはミュージシャン崩れの流浪人で、家族を置いて一人でアラスカの旅に出ていた。ある日、オリヴィアはキャリアアップを目指して大学入学を決意し、メイソン達を連れてヒューストンへ引越す。そこでビルというシングルファザーの教授と出会い再婚する。メイソンたちは新しい家族を迎え入れるのだが‥。
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(レビュー) 6歳の少年の成長の足跡を、同じ俳優を使って描いた青春ドラマ。12年という長期に渡って撮影された労作である。
製作・監督・脚本はR・リンクレイター。氏はE・ホークとJ・デルピーと組んでビフォア・シリーズという映画を撮っている。これは9年ごとに一組のカップルの出会いと別れを描くという、実に面白い試みを持った恋愛映画である。それを彼は約20年弱に渡って製作している。
今回の映画もビフォア・シリーズと似たような”リアルタイム”構造を持ったドラマと言える。
ただ、本作は12年分を1本の映画にまとめているので、短いスパンで3本に渡って製作されてきビフォア・シリーズに比べると、より挑戦志向が強い作品と言える。その証拠に、メインキャスト全員の成長と老いを1本のフィルムの中に焼き付けた事から生まれ出る物語の”リアリティ”は尋常ではない。おそらくリンクレイターは、この映画を作ることで映画その物が作り出す”リアリティ”をとことん追求したっかったのではないだろうか?これは映画史上、稀に見る実験作である。
ストーリーは、いたって普遍的な青春ドラマとなっている。主人公メイソンが母親の仕事や再婚に振り回されたり、別居中の父と細やかな交流を交わしたり、クラスメイトに初恋したり、将来の夢を見つけていく‥といった定番ネタが織り込まれている。特に捻りはないものの、安心して見ることが出来た。
ただ、中盤以降は少々ダレる。この映画は、少年の成長を描く上では実に常道の展開に終始する。また、上映時間が3時間弱もあるとはいえ、さすがに12年という長い年月を描くには尺が足りておらず、ドラマ的にも広く浅く描くことしかできていない。これでメイソンに強烈な個性があれば、まだ面白く見れるのだが、そんなことはなく至って平凡な少年である。彼にドラマを力強く牽引するだけの個性があれば、今回のドラマは更に面白く見ることが出来ただろう。主人公が没個性的なために、どうしても中盤以降は息切れしてしまった。
おそらくだが、リンクレイターは最初からプロットを立てないで撮影に入ったのではないだろうか?12年という長い撮影期間は、俳優たちにどんな変化を及ぼすか分からない。例えば、主演のメイソンの容姿は大きく変わっているかもしれない。事故や病気によって、途中からストーリーを変更しなければならないことだって考えられる。そうしたリスクを避けるため、敢えてメイソンのキャラクターをどこにでもいる普通の少年に設定し、漠然と少年の成長ドラマにするという枠組みだけを決めて撮影に取り掛かったのではないかと思う。聞けば、撮影は年に1回、子役たちの夏休みの期間中に行われたそうである。実際には経過を見ながらプロットを組み立てていったのではないだろうか。
これは先述した3部作のビフォア・シリーズも同様である。リンクレイターはこのシリーズを最初から3部作の予定で作っていたわけではなく、主演のE・ホークとJ・デルピーと9年ごとに集まって、その場でシナリオを書き上げていった。
このように、本作はその撮影方法の特殊性から、ドラマの大きな幹となるプロットが設けられていない。そのため、どうしても中盤以降はだれてしまった。
尚、本作で最も印象に残ったのは、メイソンが大学へ出立するシーンである。いわゆる母子の別れのシーンであるが、この時、オリヴィアは不意に涙を見せる。この涙が実に感動的だった。これはもしかしたら、12年間、母子役として一緒に共演してきたことから出た”リアル”な涙だったのではないだろうか?実に不思議な事であるが、劇映画を見ているはずなのにまるでドキュメンタリー映画を見ているような、そんな不思議な感覚に捕われた。
また、終盤。父メイソンが息子メイソンに話す教訓めいた言葉は、これまでのドラマを見てきた者ならば誰もが「分かる、分かる」と思えるような言葉であろう。この時の二人が、自分には本当の父と息子のように見えた。そう思えるほどに、このドラマには”リアリティ”があったということだろう。12年間、同じ俳優が演じてきたからこそ感じる”リアリティ”である。
改めて、この企画を成し遂げたR・リンクレイター監督の狙いは見事に成功しているように思った。
キャストでは、オリヴィアを演じたP・アークエットが印象に残った。12年という長い歳月は、人の体型も大きく変える。終盤では、彼女はいわゆる中年の体型になっており、それがまたこのドラマに”リアリティ”をもたらしている。他の俳優たちも同じように年を取っているが、彼女の容姿の変化はちょっと衝撃的だった。