東日本大震災の被害に遭った人々の姿を追ったドキュメンタリー。
「フタバから遠く離れて」(2012日)
ジャンルドキュメンタリー・ジャンル社会派
(あらすじ) 2011年3月11日の東日本大震災の被害に遭い、福島第一原子力発電所のある故郷から町ごと移住した福島県双葉町の人たちの避難生活を取材したドキュメンタリー。
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(レビュー) 報道だけでは中々見えてこない避難民たちの本音が聞けるという意味では、大変意義深いドキュメンタリーだと思う。
原子力発電所があった双葉町は、先の大震災による放射能汚染によって甚大な被害を受けた。住民たちは愛着のある我が家、思い出の詰まった土地を捨てて、遠く離れた埼玉県の廃校に移住せざるをえなくなる。本作はそこでの生活の営みを追ったドキュメタリーである。
敷居の無い広い部屋(教室)で赤の他人と共同生活するということは、相当ストレスがかかると思う。故郷にいつ帰れるか分からない上に、保障も十分に得られず、ただ時間だけが無為に過ぎていく。そんな中では、当然トラブルも起こる。皆が一丸となって難局を切り抜ける‥と言えば格好は良いが、そんな余裕など無いのが現実である。
印象的だったのは、この共同生活に馴染めない人々の姿だった。ある程度知った仲なら、一緒におしゃべりをしたり、食事をして気を紛らすことが出来よう。しかし、これだけ多くの人が集まっていれば、中にはコミュニケーションを上手く取れず、その輪からあぶれてしまう人たちもいる。彼らの心は益々荒んでいく一方だ。
また、津波で妻を亡くした父と息子の姿も印象的だった。父は農家をしていて息子は原発の職員をしている。震災時には妻だけが家にいて、そのまま津波に流されてしまった。震災から数か月後、一部の避難者に一時帰宅が許され、彼らも懐かしの我が家へ帰る。しかし、そこで目にした光景は余りにも非情な現実を彼らに突きつける。家があった場所は辺り一面更地になっていて何も残っていないのだ。それを見た時の彼らの憤りと悲しみは、とても言葉では言い表せない。見てて辛かった。
更に、映画は双葉町の町長にも迫っている。彼は全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)の副会長を務める人物で、それまでは原発誘致による「功」の恩恵を受けてきた。国からの交付金を受けてそれで図書館や道路を作り雇用も生まれ、町は反映してきたのだ。しかし、今回の震災によって全てを壊されてしまった。ここに至って彼は原発に対する考え方を改める。原発には「罪」もある‥と。
驚くべきは、双葉町の財政が2007年から全国でワースト10の赤字市町村になっていた‥という事実である。双葉町は明らかに原発誘致の失敗例のように思う。景気が良いのは一時的。そのリスクは恒久的。これでは何のための原発誘致なのか分からない。尚、双葉町は財政再建のために新たに原子力発電所増設の計画を予定していたそうである。その矢先での今回の大震災だった。当然計画は中止された。
全原協での一幕も皮肉的に見れた。民主党の議員が現状報告をして早々と退席した後に、双葉町の町長が誰もいない席に向って悲痛な現実を訴えっている。住民の声は政府に届かない‥という現実を象徴的に表したシーンのように思う。