老人の飽くなき生への回帰。
「先祖になる」(2012日)
ジャンルドキュメンタリー・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 東日本大震災後の岩手県陸前高田市で農林業を営む77歳の男性・佐藤直志さんが自宅を再建していくドキュメンタリー。
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(レビュー) 東日本大震災の津波の被害を受けた老人が、先祖の土地を守りながら懸命に生きていく様を感動的に描いたドキュメンタリー映画。
ここに登場する佐藤直志さんは77歳の老人である。しかし、年齢の割に随分と活発なお爺ちゃんである。力仕事もこなすし、村祭りには積極的に参加するし、見ててとても頼もしく感じられた。しかし、気丈に振舞ってはいるが、心の奥底では今回の大震災について悔恨を抱えている。消防団員をしていた長男を亡くし、自宅が半壊してしまったのだ。そうした心の傷が、どんな逆境にも屈しないという現在の姿に繋がっているのだろう。
やがて、彼は今回の大震災で半壊した自宅の再建に取り掛かる。周囲の住民が仮設住宅に移り住む中、彼は頑なに先祖が残した土地に留まり続けるのだ。この絶望的な状況で自らの信念を貫く直志さんのタフな精神力と体力には、正直頭が垂れてしまう。
カメラは常に直志さんに寄り添いながら、田植えをしたり、荒れ果てた大地にそばの種をまいたり、木を伐採する姿を捉えている。震災に負けてたまるか!という勇気と誇り、意地が感じられ、それは復興の一つの象徴のように思えた。
ただ、先祖の土地と言われても、正直自分には今一つピンと来ない部分もあった。それが、その人にとってどれほどの”価値”があるのか?そこが余りよく理解できない。そもそも人間が生きる上で、土地という物にそこまで固執する必要があるのだろうか‥。もっと素直に生きたいように生きた方が楽なのではないか‥という気もした。
今作は直志さんの姿を追う一方で、彼を心配する妻や嫁の姿にもカメラが向けられる。妻は最初は直志さんの支えになろうと努めるのだが、さすがに付いて行けず最終的には仮設住宅に一人で引っ越してしまう。嫁も同様に去っていってしまう。これも生きる上での一つの選択だろう。誰にも責めることはできない。
また、今作には直志さんを応援する一人の中年男性が登場してくる。直志さんとは何の血の繋がりもないのだが、彼の強い思いに感銘を受けて様々な面でサポートをしていくのだ。いくら若々しい直志さんといえど、やはり77歳の老人である。一人だけでは色々と限界がある。精神的にも心細くなるだろう。そんな時に彼が助けになってくれるのだ。彼の存在は非常に大きいように思った。
尚、この中年男性も震災で家族を失った被災者である。その時の思い出を語るシーンには胸を痛めてしまった。と同時に、彼の孤独な胸の内も見えてきて、実は直志さんを支える行動の裏側には疑似家族への憧憬があったのかもしれない‥と、切なくさせられた。
劇中には”けんか七夕”という地元の祭りが登場してくる。これも一つの復興の象徴だろう。残された地元の青年団が力を合わせて、本来中止になる筈だった祭りを見事に成功させる。このシーンは実にエモーショナルな感動を与えてくれた。