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悪童日記

不穏なトーンで包み込まれた異色の青春ドラマ。
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「悪童日記」(2013独ハンガリー)star4.gif
ジャンル青春ドラマ・ジャンル戦争
(あらすじ)
 1944年のハンガリー。双子の少年は両親と幸せに暮らしていたが、戦争が激化したことで祖母が住む田舎に疎開した。祖母は村人から“魔女”と呼ばれ、祖父を毒殺したと噂されていた。父は出兵。母は兄弟を置いてどこかへ行ってしまい、2人は寂しさを募らせる。祖母から邪険に扱われ、次第に心は荒んでいった。やがて盗みを働きながら兄弟は過酷な現実を受け入れていくようになっていく。

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(レビュー)
 戦争の動乱を生き抜いた双子の少年の物語。同名原作の映画化である。尚、原作は全3部作の大作らしいが、今回はそのうちの第1作の映画化である。

 非常に重苦しいトーンが通貫され、見ててかなり”しんどい”作品である。人間の残酷さ、醜悪さをまざまざと見せつけながら、死と暴力の世界が画面に映し出されていく。子供が主役の映画だからと言って、決して甘く見てはいけない。

 主人公の双子の少年は、初めは純真無垢な子供として登場してくる。しかし、戦争が激化し父が出兵。母は一人では育てていけず、双子を祖母の家に預けてどこかへ去っていってしまう。それまでの温もりに満ちた生活は消え辛く苦しい生活が始まる。

 やがて、彼らは村人から不当な差別を受けたり、母と犬猿の仲で”魔女”と呼ばれる祖母から疎まれ、厳しい現実を受け止めていくようになる。そして、生きていくためにはどうすればいいかを学んでいく。それまでしたことが無かった肉体労働や盗み、時には他人の屍を乗り越えて”生”にしがみ付いていくようになるのだ。それは純真無垢だった子供が正しく”悪童”になっていく過程である。

 見てて実に暗澹たる気持ちになるが、波乱に満ちた彼らのドラマは見てて目が離せなかった。
 また、どこまでもストイックに自分を律する姿にはどこか頼もしさも感じられた。お互いに殴り合いをして鍛錬したり、ナチスの将校からの施しを拒んだり、自分たちが見殺しにしてしまった兵士を憐れんで絶食したり、とことん自分たちに厳しくありつづけるのだ。かくして、兄弟は逞しい少年に成長する。成長とは、つまるところ、汚い物、醜い現実を受け入れ、それに負けないような”強さ”を身に付けることだと思う。彼らはそれを見事にやり遂げるのだ。そこには成長ドラマとしてのカタルシスも感じられる。

 尚、最も印象に残ったのはラストシーンである。この映画の主人公がどうして双子という設定なのか?映画を見ながらずっと考えていた。その答えがこのラストシーンで判明する。
 聞けば、原作者はハンガリーの動乱に際し、西側へ亡命した作家らしい。この映画の原作は彼が亡命した後に書かれたものである。もしかしたら、この双子という設定には、祖国を追われた自身のアイデンティティが投影されているのではないだろうか。そう考えると、このラストは俄然興味深く見れる。何故なら、彼のアイデンティティの分裂を意味しているように見えるからだ。極端な話、このラストを描くために、わざわざ双子という設定にしたのではないか‥。そんな風に思えた。

 今作は全体的に陰鬱なトーンで統一されているが、不気味な音楽もそれに大きな効果を果たしている。たまに双子の正面をクローズアップで捉える映像が登場してくるが、これもホラー・タッチでかなり不気味だ。また、双子が書く絵日記が時々アニメーションで表現されたりする。これも中々ユニークな演出だった。

 ただし、全体の重苦しいトーンを壊すほどではないが、場面によっては若干演出が軽薄な所がある。
 例えば、双子の母の顛末は余りにもそっけなく撮られており失笑してしまった。ほとんどコントのような演出である。また、爆撃シーンもCGが丸分かりで萎えてしまった。今挙げた例は、もう少し予算があればきちんと撮れていた様に思う。ハリウッド映画のような大作と違って、どうしてもそこは粗が見えてしまう。

 キャストでは、双子役を演じた少年が夫々に良かった。クレジットを見ると本当の双子のようである。鋭い眼光が印象に残る。
 また、祖母役を演じた女優の存在感も抜群だった。実は、このドラマは善と悪の境界が無い所が面白いのだが、それを最もよく体現したのが彼女だと思う。双子にとって最初は邪悪のような存在だったのが、後半になると少しだけ情愛が芽生えていくようになる。一緒に暮らすうちに肉親としての愛に目覚めたのだろう。その変遷は今回のドラマの中では肝であったように思う。
[ 2015/03/29 21:31 ] ジャンル青春ドラマ | TB(0) | CM(0)

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