fc2ブログ










アメリカン・スナイパー

伝説のスナイパーの苦悩に迫った戦争映画。
pict247.jpg
「アメリカン・スナイパー」(2014米)星3
ジャンル戦争・ジャンルアクション
(あらすじ)
 愛国心の強い一家で育てられたクリスは、アメリカ同時多発テロをテレビで見て、祖国の人々を守るために貢献したいとの思いを強くし、ネイビー・シールズに入隊する。過酷な訓練を乗り越えてイラクに出征した彼は、そこで狙撃手としての才能を発揮する。そして、いつしか仲間たちから“レジェンド”と賞賛されるまでになっていく。

ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!

FC2ブログランキング
にほんブログ村 映画ブログへ人気ブログランキングへ

(レビュー)
 伝説のスナイパーの苦悩を描いた戦争映画。原作は今作の主人公クリス・カイルの回想録である。それを巨匠C・イーストウッドが監督した作品である。

 実話の映画化ということもあろう。エンタテインメントして見た場合、決して派手な作品ではない。ストーリーも存外シンプルで淡々としたものである。また、彼の周縁描写も希薄な上に、弟にまつわる逸話等、放りっぱなしなエピソードもある。他にも、手術が原因で死んでしまった兵士のエピソードなどは、言葉だけで説明してしまっており、少々乱暴な作りに思えた。正直な所、脚本はかなり継ぎはぎだらけといった印象である。

 また、編集も乱雑である。特に前半のシールズの訓練シーンと日常シーンのカットバックは、見てて不自然なくらいぎこちなかった。もっとスマートに出来なかっただろうか‥。これまでのイーストウッド映画では余り見られないような雑な”語り”だった。

 ただ、こうした不満はあるものの、イーストウッドがこの原作を今映画化した意味。それを考えてみると、作品自体の存在意義は非常に大きいように思う。

 実際、この「アメリカン・スナイパー」は去年の全米興業収入第一位になった。エンタテインメント性が薄みで、しかもこれだけシビアな内容の映画がここまでヒットを飛ばすというのは大変珍しいことである。それだけ多くの人々が、賛否を含め、今作に惹きつけられたということである。

 そして、これを映画化したイーストウッドの狙いとは、戦争の現実を今一度観客に突きつけたかったから‥なのではないか。そんな気がした。

 というのも、普通の映画であれば、主人公クリスの葛藤に深く切り込みながら、彼の心象に寄り添うような映画になっていたはずである。それがヒロイックな映画であれ、反戦を唱える映画であれ、主人公のキャラクターに魅力を与えて感情移入させるのが大前提である。
 ところが、イーストウッドは必要以上にクリスの心の内、苦悩に迫らない。確かに見てて彼の怒りや憤り、悲しみは手に取るように伝わってくる。しかし、そこにシンクロ出来るかどうかというと、それはまた別の話である。映画はあくまで客観的な視点でクリスを観察するのみなのである。

 無論、アメリカ人の中には、彼こそアメリカのために戦ったヒーローだとして感情移入する人もいるかもしれない。しかし、あの戦争は9.11のテロとは無関係だったことは今となっては周知の事実である。その戦場で英雄と称賛されたクリスを我が身に引き寄せて考えるのは、よほど恣意的な視方をするか、極右的な思想の持主しかいないだろう。

 今作を見た人の感想は様々だと思う。イーストウッドはそれを狙って、この映画を作ったのだと思う。クリスの怒り、憤りに必要以上に迫らず、敢えて戦場と家庭の往来を淡々と筆致することで一兵士のありのままの姿を見せ、この戦争の意味を観客に問いかけたかった。クリスという人間の是非を観客に委ねるというよりも、戦争その物について改めて考えて欲しい。そういう願いを込めて今作を作ったのだと思う。

 ただし、この観点からすると、ラストの星条旗の演出だけは、どうしても自分には解せなかった。これでは結局クリスをヒーローのように仕立て上げ、まるでアメリカ礼賛のような印象を植え付けてしまいかねない。あの戦争の”非”をまるで打ち消すかのようなこの演出は、本作の存在意義そのものを否定するようなものである。最後の最後でどうしてこんなミソをつけてしまったのか‥。残念でならない。

 イーストウッドの演出はベテランらしい安定ぶりを見せている。狙撃シーンの緊迫感も上手く描写されていたし、ギリギリのラインでフィクショナルになり過ぎない所で上手く抑制されていた。ただ、前述したようにエンタメとして見た場合は、確かに地味過ぎるし余り面白くはない。逆に、敵のスナイパーとの最後の戦いなどにはCGを用いており、ここだけ何故かエンタメ性が強調されてしまっている。全体のリアリズムに寄った作りからは完全にかけ離れたCG演出で違和感を持ってしまった。

 クリス役はB・クーパー。後半からPTSDにかかっていくが、普通であれば熱演したくなる所をじっくりとした演技で見せている。彼は今作の製作にも名を連ねている。この映画にかける意気込みが十分に伝わって来る好演だった。
[ 2015/04/03 00:23 ] ジャンル戦争 | TB(0) | CM(0)

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

この記事のトラックバックURL
http://arino2.blog31.fc2.com/tb.php/1393-d7b94523