実在した天才数学者の半生を綴った伝記映画。
「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(2014英米)
ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス
(あらすじ) 1951年、天才数学者アラン・チューリングの家が荒らされ、彼は警察の取り調べを受けることになる。その後、彼にスパイの嫌疑がかかる。アランは取調官に自分の過去を語り始める----1939年、ドイツ軍と戦っていたイギリス軍は敵の暗号機エニグマの解読に必死だった。そこでMI6のもとにチェスのチャンピオンをはじめ様々な分野の精鋭が集められ、解読チームが組織される。その中にはアランの姿もあった。しかし、彼は共同作業に加わろうとせず、 莫大な予算をかけて暗号解読のための機械を作り周囲から反感を買ってしまう。次第に孤立していくアラン‥。そこにクロスワードパズルの天才ジョーンがやって来る。アランは彼女のおかげで解読チームの仲間と打ち解けていく。こうして一同はエニグマの暗号解読に邁進していくのだが…。
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(レビュー) 実在した天才数学者アラン・チューリングの数奇な半生をサスペンスとロマンスを絡めながら描いた作品。
実話の映画化という事だが、エンタテインメントとして非常に上手く作られており感心させられた。得てしてこの手の伝記映画の場合、当人の人柄に実直に迫り過ぎる余り、どこか堅苦しい映画になってしまいがちである。しかし、本作はアランの人物像をしっかりと造形しながら、尚且つ戦時の危機的状況におけるサスペンス、彼のラブロマンスがドラマに起伏を与え、1本の娯楽作品として面白く見れるように上手く作られている。確かに、アランたちがバーでビールを飲むシーンが異様に多く、これでは戦時下の切迫感がない、気持ちがたるんでいるという感じがしなくもないが、そこはご愛嬌。エンタテインメントとしては実に見応えがある。
尚、今作はエニグマの暗号解読そのものに迫ったドキュメントではない。あくまでそれを成し遂げたアランの葛藤を軸とした人間ドラマであり、派手なスパイ映画のようなものを想像してしまうと肩透かしを食らうのでご注意を‥。
物語は、1951年と第2次世界大戦時、そしてアランが寄宿学校で過ごした少年時代。この3つを交錯させながら展開される。時制の往来はスムーズ且つ流麗で、夫々に丁寧に描写されていると思った。
この中でメインとなるのは第2次世界大戦時のドラマである。アランはドイツの暗号機エニグマを解読するためにMI6の特別チームに所属し、仲間と衝突しながら戦争を終結へと導いていく。先述したように、このドラマはサスペンスあり、ロマンスありで終始、面白く見ることが出来た。
まず、チームのメンバーとの衝突と融和のドラマに感銘を受けた。
アランは他者と慣れ合うのが下手な孤高の天才で、そのせいで最初はチームから浮いた存在となる。天才にはアスペルガー症候群が多いという説があるが、傍から見れば彼にもそれが当てはまるかもしれない。いずれにせよ、アランは共同作業には向かない性格の男で、結果、周囲から”変り者”というレッテルを張られて孤立する。
物語はそこに一人の女性が現れることで好転していく。その女性とは、彼が一般公募で集めたクロスワードの天才・ジョーンである。ジョーンは快活で明るい性格の女性で、アランの閉じていた心を少しづつ開いてやる。それによってアランはチームのメンバーと打ち解け合い、暗号解読に向けて一丸となっていく邁進していくようになる。
感動的だったのは、アランが暗号解読のために作った機械が思うような結果を出せず、上層部から開発の中止が言い渡されるシーンである。そこにそれまで対立していたチームの仲間達が現れ、アランの味方をしてくれるのだ。この友情には感極まった。
また後半、ついに暗号解読に成功し一同が歓喜に包まれるシーン。その直後に、ある状況に追い込まれて彼らは再び絶望の淵に叩き込まれてしまう。この時のアランが採った”苦渋の選択”にも泣かされた。
一方、ロマンスの方も実に感動的に見れた。
これは歴史的にも明らかにされていることだが、アランは性的マイノリティだった。映画の中では中盤に彼自身の口から明かされているが、これは元を辿れば彼の寄宿学校時代に遡る話である。
彼は周囲に馴染めず、そのせいで虐められていた。そこを同級生のクリストファーという少年に助けられる。二人は交友を深め、いつしかそれは愛へと変わっていく。ある意味では、クリストファーとの出会いがアランのその後の人生を決定づけたような所あり、彼の存在なくしてこのドラマは語れない。
そして、アランは今でもクリストファーのことを忘れられないでいる。その思いが、暗号解読のために作り上げた機械、今となってはコンピューターの元祖とも言われているが、その機械の名前に引き継がれている。アランのこの愛には切なくさせられた。
キャストでは、アランを演じたB・カンバーバッチに尽きると思う。彼は、ほぼ全編出ずっぱりで独壇場の芝居を見せている。孤高の天才数学者の葛藤をナチュラルに、時に熱っぽく表現し、緩急を付けながら上手く演じていると思った。自分にとってカンバーバッチと言えば、これまでは
「スター・トレック イントゥ・ダークネス」(2013米)の印象が強かったが、これからは今作の印象が強くなりそうだ。演技派的な側面を見せつけたという意味では、彼を代表する1本になるのではないだろうか。