伊藤英明の怪演がインパクト大!
「悪の教典」(2012日)
ジャンルアクション・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 頭脳明晰と爽やかなルックスで生徒はもちろん、同僚やPTAからも信頼の厚い高校教師、蓮実聖司。彼は学内で起こる様々な問題、カンニングや虐め、モンスターペアレント、セクハラ等の問題に誠実に対処しながら絶対的な存在感をアピールしていた。しかし、そんな彼の本当の姿は誰も知らない。実は、彼は自分にとって邪魔な人間は誰でも殺すサイコパスだったのだ。その正体を同僚の釣井に感付かれてしまい‥。
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(レビュー) 貴志祐介の同名小説を鬼才・三池崇史が映像化したバイオレンス・アクション作品。
原作は未読だが、ここまで未成年を殺しまくる映画だとは思っていなかったので驚いた。これが三池監督らしいバイオレンスだ‥と言ってしまえば確かにそうなのだが、仮にも東宝というメジャー会社が配給してここまで凄惨な描写が満載というのは異例である。R15指定も当然という気がした。
尚、自分は貴志祐介の映画化作品を過去にも見ている。「青い炎」(2003日)と「黒い家」(2007)の2本である。片や少年犯罪、片や保険金詐欺事件という、いずれも現代らしい社会問題を扱った映画で中々見応えがあった。人間の奥底に眠る”どす黒い闇”を赤裸々に描写した所も面白かった。そして、その時の”イヤ~な感触”は今作にも通底している。
ただ、この2本はどちらかと言うとダークな作りのサスペンス映画であり、今作とは明らかにテイストが違う映画である。今回は、どちらかと言うとバイオレンスを見所にしたアクション性の強い作品になっていて、このあたりは映画を作った監督達の作家性の違いという感じがした。「青い炎」は蜷川幸雄、「黒い家」は森田芳光が監督をしている。彼らと三池監督とでは明らかに作家性が異なる。今回は良い意味で、三池監督の特色が前面に出た映画だと思った。
物語は、いきなり主人公・蓮美が教壇に立っている所から始まる。蓮美は一見すると実に理想的な教師に見える。しかし、私生活は誰にも見せず、裏では何をやっているか分からない。そんなミステリアスな人物像が映画前半を上手く盛り上げている。
その後、同僚の釣井に過去の経歴を調べられて、蓮美の本性が徐々に明らかにされていく。実は、彼は海外で一流ビジネスマンとして働いていたが、何かトラブルを起こしてこのたび日本に帰国してきた。海外にいる間に一体何があったのか?それが釣井と一部の生徒たちの目線でスリリングに解明されていく。
但し、自分は映画を見ながら、蓮美の過去の経歴について色々と疑問に思った。第一に、これほどの重犯罪を犯しておきながら、何のお咎めもなしに日本に戻ってきて、そんなに簡単に高校教師になれるものだろうか?普通であれば周囲が何かおかしいと気付くはずである。この映画は、彼が教師になるまでの経緯についてまったく触れていない。そのため、何となく都合のいい話のように思えてしまった。
実は、後から分かったのだが、この映画の前に「悪の教典-序章-」(2012日)という前日談を描いた作品があるそうである。どうやらwebTVで公開されたらしいが、自分はそれを見ていない。おそらく蓮美の過去についてはその「序章」で詳しく描かれているのだろう。
ただ、どうせ映画にするのであれば1本の作品として完成させてほしかった。webとのタイアップで作品を盛り上げようという商業的な算段が余り好きにはなれない。できれば、序章と今回の映画をまとめて、1本の”作品”として見てみたかった。あるいは昨今流行の前後編に分けて作るというのでも良い。
映画が後半に入ってい来ると、いよいよ三池監督の独壇場。大虐殺大会が幕を開ける。自分の過去がバレてしまった蓮美が自暴自棄になって、生徒達を夜の校舎に閉じ込めて散弾銃で殺しまくるのだ。まるで家畜のように次々と撃ち殺していく様は、ある意味ではホラー映画に匹敵する怖さがある。命乞いをする生徒たちを有無をも言わせず吹き飛ばしてしまう姿に戦慄が走った。いかにも三池監督らしい容赦のない暴力描写である。
ラストのどんでん返しも良かった。おそらく多くの観客は蓮美が捕まって万々歳‥というのを予想するだろう。しかし、そうは問屋は下ろさない。これもホラー映画的と言うべきか‥。こういう終わり方は個人的には好きである。
その一方で、ユーモアも所々に配されていて面白かった。
特に、山田孝之演じるセクハラ教師のキャラが中々良かった。パンティを嗅ぐシーンが傑作である。また、蓮美が上機嫌になると三文オペラの主題歌を口笛で吹くというのも中々可笑しい設定だった。
尚、演出で雑に思ったのが1箇所だけある。電車に乗った釣井を蓮美が尾行するシーンである。ここでの電車のセットが、明らかに作り物臭くて萎えてしまった。セットである必要性も感じられないし、本物を使って撮影すべきであろう。
キャストでは、蓮美を演じた伊藤英明の怪演を評価したい。これまでは爽やかでカッコイイだけのイメージだったが、今回で完全に極悪キャラを開眼させてしまった感がある。”自分サイコー”なナルシスティックな側面も上手く演じていたし、何と言ってもラストの表情が映画を締め括るという意味では、これ以上ないほどのインパクトを残している。本作は俳優・伊藤英明の”脱皮”が実感できる逸品となっている。