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46億年の恋

奇妙な世界観で展開される男同士の愛憎ドラマ。
46億年の恋 [DVD]46億年の恋 [DVD]
(2007/02/23)
松田龍平、安藤政信 他

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「46億年の恋」(2005日)星3
ジャンルロマンス・ジャンルサスペンス・ジャンルファンタジー
(あらすじ)
 監獄の雑居房で有吉は香月の首を絞めて殺害した。2人は同じ日に投獄された仲だった。ゲイバーで働いていた有吉は、店の客に性的暴行を受けてその男を殺害。香月は幼い頃から様々な犯罪に手を染め、路上で人を殴り殺してここに投獄された。今回の事件を2人の刑事が捜査することになる。殺害当時、香月の首にすでに縄の跡があったことに目をつけ、彼らは第三者の関与を睨んで聞き込みを開始する。

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(レビュー)
 2人の青年の悲劇的愛を幻想的に綴った作品。梶原一騎と弟・真樹日佐夫の共作による正木亜都名義の小説『少年Aえれじぃ』を鬼才・三池崇史が監督した作品である。

 三池監督と言えば、この前に紹介した「悪の教典」(2012日)のような過激なバイオレンス映画を撮ったり、「一命」(2011日)のような硬派な時代劇、「愛と誠」(2012日)のような風変わりなミュージカル、未見であるがアニメの実写化等、多岐にわたった作品作りをしている、おそらく日本で最も強い挑戦志向を持った職人監督のように思う。
 その彼が、今作では監獄を舞台にしたボーイズラブ。しかも殺人事件を巡るミステリー・ドラマに挑戦している。ただ、正直な所、ストーリー自体は表層的で、ミステリーもオチに意外性はあるが説明的過ぎて食い足りなかった。もう少しじっくりと腰を据えたドラマの作り込みを望みたかったが、上映時間が80分強ではそれも叶わず。どうにも中途半端な映画になってしまった。これでは事件のあらましを聞かされてるみたいで味気ない。

 物語は香月の幼少時代から始まる。いきなり刺青の男がダンスをするという奇妙なシーンとのカットバックで度肝を抜かされる。この肉体美、躍動感は映画の”引き”としては申し分ない。真っ赤な背景をバックに、幼い香月少年と祖父の意味深なセリフのやり取りもミステリアスで中々良かった。

 その後、有吉が香月の首を絞めて殺害するというシーンに切り替わる。そして、ここから物語は再び過去に遡って、2人が投獄されるシーンに繋がっていく。寡黙で超然とした有吉。粗野で荒々しい香月。対照的な彼らの間に一体何があったのか?そして、どうして今回の事件が起こったのか?2人の刑事が登場してきて、署長や周囲の囚人たちの証言を元にしながら解明されていく。

 ただ、先述したように事件のオチそのものに意外性はあったものの、語りが平板なためにエンタテインメント的な醍醐味は少ない。そもそも、香月が自分の手で‥という所に余り説得力が感じられなかった。

 一方、この映画は映像的には見所が多い作品である。
 冒頭の真っ赤な背景で行われる香月の過去を巡るシーン。刑務所の外を囲む茜色の空と砂漠。黄金色のモノトーンで表現された獄中シーン。刺激的な色彩が画面を席巻し、この物語をどこかこの世の物とは思えぬ幻想的な雰囲気で埋め尽くしている。

 また、署長室のセットは明らかに構図が歪に設計されていて、まるでドイツ表現主義の代表作「カリガリ博士」(1919独)へのオマージュと言わんばかりの不条理、不穏さに満ちていて中々面白いと思った。

 更に、有吉と香月が雑居房に案内されるシーン。ここは建物の壁が無い、あからさまに手抜き感バリバリのセットで撮影されている。ラース・V・トリアー監督の「ドッグヴィル」(2003デンマーク)でも見られたような演劇的アプローチが感じられた。

 そもそもこの映画には、雑居房にしろ署長室にしろ、いかにもセットです‥と言わんばかりの背景しか出てこない。香月と有吉の過去パートで少しだけロケ撮影は出てくるが、ほとんどが非現実的なセットの中で行われる”寓話”である。しかも、刑務所の外にはピラミッドとロケットの発射台があり、これらも拙いCGで製作されている。予算的な問題もあるかもしれないが、明らかにこのあたりも狙ってやっているのだろう。
 途中で突然出てくるアニメーションも然り。刑務所から脱走を試みた男が電流で焼け焦げるシーンは実写ではなくアニメで表現されている。これも物語の寓話化を狙った演出だろう。

 こうした人工的な背景、シュールな演出、アニメーションの挿入は、このドラマの寓意性を高め、結果的に映画全体を奇妙な味わいにしている。
 色々と呑み込めない部分もあるにはあるが、こうした映像の数々はかなり実験的で面白いと思った。

 また、ラストが何を意味しているのかも、人によって解釈が様々だろう。タイトルの「46億年の恋」とは何だったのか?その説明もない。そこは見た人夫々が想像するほかない。
 有吉と香月は地球が誕生して以来の第2のアダムとイブだったのか?全ては誰かの夢の中での出来事だったのか?これは未来の物語なのか?不明な点が多い。これらの謎にフラストレーションを持つか否かは人それぞれである。
 ただ、同時に実験的な映像演出でグイグイと画面に引き込まれることも確かで、自分はドラマの中心となる殺人事件そのものよりも、この世界観の方に激しく惹かれた。

 キャストは有吉役に松田龍平、香月役に安藤政信が扮している。夫々に好演していると思った。
[ 2015/04/27 00:53 ] ジャンルロマンス | TB(0) | CM(0)

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