瑞々しい映像とドラマに引き込まれる。
「四月物語」(1998日)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 北海道から東京の大学に進学した卯月は、初めての一人暮らしを始める。引っ込み思案な性格で中々周囲に馴染めないでいたが、同級生のさよ子と知り合うことで少しずつ大学生活に慣れていく。そんな卯月には”ある秘密”があった。
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(レビュー) 上京した大学生の初恋を抒情的に綴った小品。
悪人が一切出てこない。展開が説得力に欠ける。主人公の心中を深く掘り下げるまでに至っていない。こうしたマイナス面はあるが、60分強という時間を考えればそれも止む無しだろう。そもそもこの映画はストーリーよりも”演出”が優先されている作品である。
監督・脚本・編集は岩井俊二。氏独特の透明感あふれる瑞々しい映像はここでも健在で、作品全体を暖かな空気で包み込んでいる。物語の舞台設定が4月ということで今の時期にもピッタリだ。
何と言っても爽やかな鑑賞感を残す所が良い。古めかしい少女漫画のような物語とも言えるが、かえってそれがこの恋愛をノスタルジックで愛おしいものに見せている。
また、クライマックスの卯月の秘めたる恋心の顕示も、土砂降りの雨の中というドラマチックな演出によって美しく盛り上げられている。
ここでの傘の使い方は洒落ている。普通であれば突っ込みたくなる所であるが、何となく卯月を応援したいという気持ちに駆られ、そんなことはどうでも良くなってしまった。一にも二にも卯月の純朴なキャラクターに好感が持てるからであろう。
そういう意味では、卯月を演じた松たか子の初々しい演技も奏功している。まだデビュー間もないという事もあり、演技力云々はこの際置いておくとして、卯月という引っ込み思案な少女を自然体に演じている所が良い。映画が終わった後、彼女の恋はどういう発展を見せたのだろう‥などと、あれこれ想像してしまった。
今作の演出で難を挙げるとすれば、序盤の桜が舞い散るシーンだろうか。ここは少し大仰に写ってしまった。新生活を始める卯月を祝福するという演出的な意図があるのかもしれないが、あそこまで桜が散るとかえって不自然さの方が際立ってしまう。このシーン以外は、取り立てて不自然さを覚えた箇所は無かった。全編に渡って岩井ワールドが堪能できた。
尚、映画の冒頭で、上京する松たか子を見送るために、松本幸四郎を含めた一家全員が登場してくる。こうして勢揃いする所をスクリーンで見れるのは非情に珍しいかもしれない。