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歓待

独特のテイストが面白い。
「歓待」(2010日)star4.gif
ジャンル社会派・ジャンルコメディ
(あらすじ)
 東京の下町で小さな印刷所を経営している小林幹夫は若い妻・夏希と前妻の娘、出戻りの妹と平穏な暮らしを送っていた。ある日、娘が飼っていたインコが逃げてしまい、それを探していた所に、父の知人だと名乗る加川という男がやって来る。インコの捜索の張り紙を見てきたという加川に、妻は不審な臭いを感じたが、お人よしの幹夫は彼を歓迎した。そして加川を住み込みの工員として雇う。

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(レビュー)
 ある平穏な一家に訪れた謎の男が周囲に様々な波紋を及ぼしていくホーム・コメディ。

 物語だけを見ると、以前見た三池崇史監督の怪作「ビジターQ」(2000日)に少し似ていると思った。招かざる訪問者が一家を翻弄しながら騒動を巻き起こしていく‥という所が共通している。但し、あちらは崩壊寸前の家族を訪問者が良くも悪くも(?)まとめてあげていく‥というコメディになっていたが、こちらはテーマその物が少々異なる。

 主人公一家・小林家に入り込んだ謎の男・加川は、ある日突然、外国人の妻を招き入れて同棲を始める。更に終盤、彼は不法就労者を次々と呼ん込んで小林家を文字通り占拠してしまう。臆病で人の良い幹夫はそれを見てみぬふり。唯一、加川を疎ましくして思っていた妻も、加川に弱みを握られ事態を傍観するしかなくなってしまう。

 グローバル化した現在。日本には様々な外国人が旅行で訪れたり、企業で働いたりしている。その多くは一定の常識を持った外国人たちである。日本の独特の社会に上手く溶け込みながら自分たちの暮らしを送っている。しかし、中にはこの映画に登場したような、正式な手続きを踏まないで居ついてしまう不法就労者もいる。社会的な価値観も違えば、習慣も違う彼らに、果たして我々はどう対処すればいいのか?今後益々増えていくであろう外国人就労者には様々な問題が付きまとう。

 この映画は、ある一家に起こる騒動を描いたホームコメディであるが、その根底には”他者”を受け入れることの難しさ。ひいては現在日本が置かれている外国人流入の問題がとてもシニカルに投影されていると思った。そういう意味では、実に社会派的なメッセージを持った作品だと言える。

 先日、東京オリンピックの開催決定の席で「お・も・て・な・し」というフレーズが話題になったが、この映画「歓待」を見るとそれが皮肉めいて聞こえてくる。日本人のほとんどは英語が喋れない。外国人を見ただけで幾ばくかのアレルギーのような物を抱いてしまう人も多いだろう。そんな我々が今後、外国人をどうやって「歓待」していくことができるのか?お人好しで隙の甘い小林家の人々を見ていると、そんなことを考えさえられてしまう。

 監督・脚本・編集は深田晃司。演出は特に捻った所は無ものの、オーソドックスにまとめられていると思った。ただ、欲を言えば、もう少し映画ならではのキラー・ショットのような物が欲しい。全体的に淡々とした演出が続くので、どこかに目を見張るようなショットがあれば映画全体が引き締まったように思う。
 また、加川が初めて画面に登場するシーンは、かなりぶっきらぼうに撮られていて気になった。おそらく出来るだけ自然に登場させたかったのだろうが、彼はこのドラマに於けるキーマンである。その登場シーンとしては、いささか凡庸である。もっと”只ならぬ感”を漂わすような演出的な工夫が欲しいと思った。

 一方、脚本は文句なしによく出来ていると思った。観客に次々と提示される”サプライズ”が上手く効いていて、見ながらグイグイと作品世界に引き込まれた。

 この映画は、最初に小林家の家族関係について何の説明もないまま始まる。一体誰と誰がどういう関係にあるのかさっぱり分からないまま見始めることになるのだが、それが物語の進行とともに徐々に判明してくる。ちなみに、自分は出戻りの妹が幹夫の妻だと思って見ていた。ところが、途中から見るからに若い夏希の方が彼の妻だと分かりビックリした。更に、何故彼女はこの若さで幹夫のような冴えない中年男と結婚したのか?その理由も後半で判明する。これにも驚かされた。
 この他にも、娘が前妻との間に出来た子供であること、加川に妻がいたこと、その妻が外人だったこと、更には夏希の秘密の過去等、次々と驚きの事実が判明してくる。こうした”サプライズ”は実に巧妙に仕掛けられており、見てて興味が尽きなかった。

 キャストは初見の人が大半で、決して有名人が出ているわけではない。しかし、夫々に芸達者である。あとで分かったのだが、ここに登場してくるキャストの多くは劇団青年団に所属する俳優たちだった。以前見た、主宰の平田オリザを追ったドキュメンタリー映画「演劇Ⅰ」(2012日)「演劇Ⅱ」(2012日)にも結構出演していたことが思い出される。尚、今作の監督・深田晃司も青年団の演出部に所属する才人だそうである。ちなみに、平田オリザ本人も今作では”芸術監督”という名前でスタッフ参加している。
[ 2015/05/15 00:39 ] ジャンルコメディ | TB(0) | CM(0)

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