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海炭市叙景

北海道を舞台にしたシリアスな群像ドラマ。
「海炭市叙景」(2010日)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 冬の海炭市に、両親を亡くした兄妹が仲睦まじく暮らしていた。ある日、兄が勤める造船会社が経営不振により大々的なリストラを敢行する。これによって兄は職を失ってしまう。地域開発が進む町に一人暮らしの老婆が住んでいた。彼女は土地の明け渡しを頑なに拒んで居座り続ける。プラネタリウムで働く中年男は、水商売をしている妻と高校生の息子と暮していた。男は妻の浮気を疑い始め‥。ガス会社の若社長は会社の立て直しを図って浄水器のセールスを始めた。ところが、これが全く上手くいかず、家庭では別の問題が発生する。路面電車の運転手は、ある日一人の青年を目撃した。その青年は東京からやって来た浄水器のセールスマンだった。しかし、青年は商売が上手くいかず東京に戻ろうと考える。

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(レビュー)
 架空の町を舞台にした5つのオムニバス作品。原作は若くして自殺した佐藤泰志の同名短編集。それを熊切和嘉が監督、宇治田隆史が脚色した作品である。

 寒々とした風景の中で暗く沈んだ話が続くので、好き嫌いが分かれる映画だと思う。しかし、そこで描かれる人生のほろ苦さ、世の中そんなに上手くいかない‥というシビアなドラマには噛みしめたくなるような味わいが感じられた。個人的にはかなりツボに入った作品である。

 監督の熊切和嘉と言えば、衝撃の問題作「鬼畜大宴会」(1997日)でデビューを果たした後、独自の路線を歩みながら着実に自分の世界観、人生観を表現してきた中堅監督である。作風に少しクセがあるし、内容がこじんまりとしているので、決してメジャーにはなれない作家である。今作を含め原作物も何本か撮っているが、基本的にはオリジナリティを堅持する姿勢を貫ている。この路線でどこまでも突っ走って行って欲しいと思う。

 今回は架空の町を舞台にした群像劇である。ただ、架空の町とは言っても、原作のモデルが北海道の函館市ということもあり、映画はそこに住む人々の協力を得ながら撮影された。それだけリアリティを追求したかったのだろう。結果、これまでのようなミニマムな作品よりも、幾分大掛かりな製作体制になっている。とは言ってもメジャー作品に比べればまだまだ小さい映画であるが‥。

 映画は5つのストーリーがパノラマ風に展開されることで進んでいく。夫々が一つの話で1本の映画を作れそうなくらいのボリュームで中々見応えがあった。

 また、個々のエピソードは決して明確に交錯するわけではないが、画面の端々で関連してくる所が面白い。例えば、第1話の兄妹のエピソードはラストのエピソードで循環するし、第2話の老婆のエピソードは、第4話のガス会社の若社長のエピソードと交錯する。こうした繋がりが海炭市という小さな町を舞台に繰り広げられることにより、映画を見終わる頃には各エピソードがペーソスたっぷりに反芻される。様々な感情が沸き起こり感涙してしまった。

 特に、第1話の兄妹のエピソードが印象に残った。このエピソードはラストで再び登場してくるのだが、その顛末には実にやるせない思いにさせられた。兄が一体どんな思いで初日の出を見たのか?そして、どんな思いで一人で下山したのか?ラストでそれがはっきりと分かる。ここで冒頭のシーン、幼少時代の二人の後ろ姿が想起され泣けてしまった。

 また、この兄妹のエピソードには、不況に喘ぐ地方都市の実態も暗に投影されているような気がした。彼らの父は仕事中の不幸な事故で亡くなった。その後、兄は父の跡を継ぐようにして同じ造船会社で働くのだが、不況の煽りで首になってしまう。こうした地方の先細り感が、この映画の中では他にも登場してくる。
 例えば、第4話のガス会社の若社長のエピソードも然り。都市と地方の格差は、この映画の中ではかなり意識的に描かれている。そう言う意味では、彼らが置かれている過酷な現実がこの物語に一定のリアリティをもたらしているとも言えるし、作り手側の現状に対する憤りみたいな物も感じ取れた。

 脚本の構成力にもセンスを感じた。最初の兄妹のエピソードを軸にしながら夫々のエピソードを連鎖的に積み重ねていく構成は、A・G・イニャリトゥ監督の作品に通じるようなパズル的面白さが感じられる。全体のドラマを循環させた構造も見事である。

 ただし、一つ、二つ突っ込みたい所もあった。一つは、ラストの路面バスのエピソードである。これはそれまでのエピソードを集約するエピソードとなっているが、ここで第3話の夫婦が登場してくる。彼らは並んでバスの座席に座っているのだが、このカットには疑問を抱いた。あれほど険悪だった二人が一体どうして仲良く一緒にバスに乗っているのだろうか?どう考えても不自然である。
 もう一つも、同じ路面バスのエピソードで、バスの運転手の息子がぼったくりバーで痛い目に合うシーンである。息子は渋々金を払って店を出ようとするのだが、そこに酔っ払いが乱入してくる。このキャラクターはかなりコメディライクに演出されていて、店の用心棒に殴られて外に放り出されてしまう。その姿がまるでコントのようで、全体のシリアスなトーンから多少浮いてるような気がした。

 キャストは夫々に良かったと思う。谷村美月の地味な出で立ちは、これまでの出演作品から考えると意外であったが結構ハマっていた。他に加瀬亮、小林薫、南果歩といった堅実なベテラン陣が出演している。
 ただ、それ以外となるとメジャーな俳優は一切出てこない。しかし、先入観無しでその役柄を見れてしまうという意味では、夫々に説得力のある演技を披露していたと思う。特に、第2話に登場した老婆役の女優の圧倒的な存在感はピカイチだった。また、第1話に登場した兄の、いかにもブルカラー的造形も申し分ない。更に、浄水器のセールスマンの虚無感タップリな演技、路面電車の運転手の寂れた演技も味わい深かった。
[ 2015/05/18 00:48 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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