超能力を手にした若者たちの葛藤をユニークな作風で綴った作品。
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (2014-06-18)
売り上げランキング: 8,289
「クロニクル」(2012米)
ジャンルファンタジー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) アンドリューは、中古のビデオカメラで自分の私生活を録っている孤独な高校生である。ある日、従兄のマットに連れられてパーティへ出かけた。そこでクラスの人気者スティーブと出会い、森の奥深くに奇妙な穴を見つける。彼らはその穴に入って不思議な光る物体に手を触れ超能力を身に付けた。3人はその力を使って他愛もないイタズラに興じるのだが‥。
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(レビュー) 超能力を身に付けてしまった3人の少年の顛末をPOV形式で綴った青春ファンタジー映画。
超能力という非現実的な事象を描くにあたって、POVというアイディアを持ってきた所は中々面白いアイディアだと思った。
但し、今作はPOVとは言っても、主人公アンドリューのビデオカメラ以外に、公の場に備え付けられた監視カメラやマットの友人ケイシーが撮影するビデオカメラ、テレビ局や警察のカメラなどが入り混じるので純然たるPOV映画とは言えない。どちらかと言うと
「リダクテッド 真実の価値」(2007米カナダ)のようなコラージュ形式のモキュメンタリー映画となっている。
欲を言えば純然たるPOVに徹して欲しかった。ドキュメンタリーっぽく作られてはいるが、様々な映像で構成されているので映画の視点があちこちに飛んでしまう。そうなると、POV映画の最大の特徴である、嘘を真実のように見せるという効果が薄れてしまう。特に、後半に行くにつれてPOVから離れて行ってしまうのが残念だった。
物語はシンプルにまとめられている。
アンドリューは悲惨な家庭環境で育ち、それゆえ自分の居場所を見つけられないでいた。彼の唯一の趣味と言えば、中古のビデオカメカメラで自分の日常を撮ることだけ。そんな彼がある日、突然超能力を手に入れて、今まで自分を馬鹿にしてきた世間を見返してやろうと”力”を暴走させていく‥。非常にストレートなドラマで、彼の心理も巧みにトレースされているので、最後まで飽きなく見れた。
と同時に、アンドリューの”力”の暴走には哀れさも覚えた。未熟な若者特有の自暴自棄な心理と言えばいいだろうか‥。切れる若者という言葉も随分昔の言葉になってしまったが、それに似た感想を持った。
まず、何と言っても前半の自動車事故のシーンで「ハッ‥」とさせられた。アンドリューの軽はずみな行為からこの事故は起こってしまう。悪ふざけが過ぎるというのは、こういうことを言うのだろう。アンドリューがいかに思慮に欠けた幼稚な子供であるかがよく分かる。更に言えば、どうして彼に友達が出来ないのか?というのも何となくここから想像できてしまう。要するに、彼は誰かに注目されたい、愛されたいという思いが常に心のどこかにあり、他者に対する配慮という所まで目がいかない人間なのである。余りにも自己中心的な心理である。彼のこの心理は自分自身をカメラに収めるという行為自体にも共通している。
対するマット、スティーブは、年相応の思慮分別を持った少年たちである。超能力を使って際どいイタズラもするが、アンドリューのように度を過ぎたイタズラはしない。少なくとも人の生死に関わるような危険な行為はしない。
ちなみに、マットはアンドリューを温かく包み込むような存在で、まるで本当の兄のように頼れる青年である。スティーブの方はアンドリューとは正反対で学園の人気者である。アンドリューのコンプレックスを引き出す‥という意味では中々効果的なキャラ配置でよく考えられていると思った。
物語は後半に行くにつれて、3人の友情に亀裂が生じていくようになる。これには深い悲しみを禁じ得なかった。
監督の話によれば、今作は大友克洋が監督したアニメ「AKIRA」(1988日)の影響を強く受けたということである。なるほど、3人の友情形成と破滅というドラマは「AKIRA」の金田、山形、鉄雄の関係に似ているかもしれない。また、超能力というモティーフも「AKIRA」そのものとも言える。ちなみに、アンドリューたちが空を飛ぶシーンには、やはり大友克洋がキャラクターデザインを手がけたSFアニメ「幻魔大戦」(1983日)の1シーンが想起させられた。「幻魔大戦」も超能力を持った少年少女たちの戦いを描いたドラマだった。もしかしたら監督はこのあたりも参考にしているかもしれない。
いずれにせよ、低予算の映画ながらアイディア勝負の小品としてはよく出来てて、演出自体も随分こなれていると感じた。
ただ、見ている最中、幾つか引っかかる箇所があった。一つは、病室のカメラをどうやって設置したのか分からないということである。重傷のアンドリューがセットしたのだろうか?そのあたりが疑問に残った。また、クライマックスにおけるケイシーのカメラが随分とクリアに撮れてるのにも違和感を持った。もっと手ブレを増して臨場感を出して欲しい所である。
キャストでは、アンドリューを演じたデイン・デハーンの病んだ表情が印象に残った。少し影のあるところが面白く、どこかディカプリオに似ているという気がしなくもない。スターになる素質は十分に持っている。今後とも注目していきたい。