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ゼロの未来

独特の世界観がたまらないT・ギリアム監督の新作。
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「ゼロの未来」(2013英ルーマニア仏米)星3
ジャンルSF・ジャンルコメディ・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 人々の生活がコンピュータに依存した近未来。巨大企業マンコム社で働く孤独なプログラマー、コーエンは、いつかかかってくる”大事な電話”を待っていた。ある日、彼は会社のマネジメントに在宅勤務を直訴する。これが認められ彼は“ゼロの定理”の解明を任される。パーティで出会った魅力的な女性ベインズリーやマネジメントの息子ボブといった連中に振り回されながら、コーエンは仕事のストレスを募らせていく。

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(レビュー)
 孤独な中年プログラマーの身に起きる騒動をブラックに綴ったSFコメディ。

 監督は奇才T・ギリアム。今作は氏の代表作「未来世紀ブラジル」(1985英米)を彷彿とさせるようなスラップスティックな作りのブラック・コメディとなっている。いかにもギリアムらしい作品なのでファンならば楽しめるだろう。逆に、ファンじゃないと、少々取っつきにくいかもしれない。それだけクセを持った作品となっている。

 ただ、確かにギリアムらしい作りは徹底されているのだが、どうしても既視感を拭えず、これまで氏の作品を見てきた者としては、ある種の物足りなさも覚えた。主人公コーエンが追い詰められていく姿や、周辺人物との絡み方は、どう見ても「未来世紀ブラジル」の焼き直しに見えてしまう。新味に欠けるという難点がある。

 唯一、斬新な試みだと思ったのは、コーエンの部屋が教会の廃墟ということである。そこには明らかに宗教に対する皮肉が込められており、これは今までのギリアム作品には余り見られなかった設定だと思った。現に、今作はエンドロール後に更に追い打ちをかけるように強烈な”メッセージ”が提示されている。これを見る限り、おそらく監督自身or脚本家は、この設定に強いこだわりを持っているのだろうと想像する。

 映像はもはや唯一無二の感性、ギリアムらしい混沌とした世界観に見応えを感じた。確かに過去作との相似も見つかるが、氏独特の感性が表出されたという意味では満足できた。様々な小物に対するこだわりにも目を見張る。例えば、道路の壁に流れる広告、乗り物、コスチュームといった所に面白いギミックが施されている。

 また、コーエンの仕事はプログラマーだが、その仕事ぶりも大変面白いアイディアで表現されている。彼はモニターに向って、まるでアクションゲームよろしく、謎の数式が書かれたピースを並べて巨大なパズルを完成させていく。パズルが完成するとプログラムが完成するというわけだ。こうして出来あがったデータは物理的に可視化され、会社に転送装置のような物を使って転送される。アナログとハイテクの融合とでも言おうか、いかにもギリアムらしい発想で感心させられた。

 一方、物語の方は、やや舞台設定に広がりが欠け、せっかくの魅力的な世界観が余り活かされていないのが残念だった。コーエンは外に出ないで在宅勤務をするので、必然的に物語も彼の部屋の中だけで展開されていく。バーチャルの世界に身を委ねるシーンも出てくるが、それも夕焼けの海岸という1シチュエーションで代わり映えがない。ここをもう少し多彩にしていれば、もっとストーリーはダイナミックに展開できただろう。予算の問題かもしれないが、このあたりの作りは惜しまれた。

 コーエンを演じるのはオスカー俳優、クリストフ・ヴァルツ。コメディタッチな演技も中々上手く、今回も安定した演技を見せている。他に、T・スウィントン、M・デイモン、B・ウィショーといった錚々たる面子が登場してくる。但し、夫々に特殊メイクをしているので、見ている最中は全然気が付かなかった。しかもクレジットのないカメオ出演である。

 ちなみに、劇中で問題となっている”ゼロの定理”であるが、この意味については深く探求しないで映画を見た方が良いと思う。結局、コーエンもその定義を追求しようとして、最終的に答えを導き出せたのか、出せなかったのかよく分からない終わり方になっている。導き出せたとしても、それは彼の中だけで理解された”答え”であり、映画を見ている我々に明確に示されるわけではない。観客一人一人に委ねられている。したがって、今作を見終わって悶々とするという人がいるのは何となく分かる。しかし、それこそがこの映画の狙いのようにも思った。
 ちなみに、俺が考えた”ゼロの定理”は、この世の全ての物からの解放。”虚無”である。そして、それはコーエンの心の解放のように思えた。
[ 2015/05/30 20:08 ] ジャンルコメディ | TB(0) | CM(0)

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