しみじみとくる人情ドラマ。
日活 (2002-06-21)
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「かあちゃん」(2001日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 天保末期、天涯孤独な青年・勇吉が腹を空かせて江戸にやってくる。彼は、なけなしの金で最後の酒を飲むと、大金を貯めこんだ一家が長屋にいるという噂話を耳にする。その夜早速、彼はその家に忍び込んだ。ところが、そこで待っていたのは5人の子供たちを女手一つで育てている、おかつだった。彼女に見つかった勇吉はその場で諭される。そして、家にある金は長男の友人、源さんのために使う物だったことが分かる。おかつは反省する勇吉を見て根っからの悪人とは思えず、彼を家族の一員に迎え入れる。
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(レビュー) 山本周五郎の原作を巨匠・市川崑監督が映画化した心温まる人情話。
余りにも饒舌に展開されるため少々出来すぎな感が否めないが、そこはそれ。いわゆる情に厚い庶民の物語‥という風に受け止めれば決して悪くはない。
実際、勇吉の身上を証明する書付けのエピソードにはしみじみとさせられた。何と言っても、ここでの息子たちの立ち回り方が良かった。全てを知りながら、おかつの優しさを敢えて受け止める”さりげない”気遣いが良い。おかつはきっと、彼らが立派な大人に成長したことに感じ入ったに違いない。おかつの育て方が良かったのだろう。実に美しい家族である。果たしてこんな家族が本当にいるだろうか?という突っ込みは置いておくとして、ある種、美しき家族のあり方を見せられた思いがして心が洗われた。
逆に、このドラマに必要以上にリアリティを求めてしまうと、少々厳しいかもしれない。とてもじゃないが甘ったるくて見てられない‥という風になるだろう。
例えば序盤、勇吉はおかつの親切を自然に受け入れてしまっている。しかし、ここは普通であれば何か裏があるに違いない‥と疑うのが当然であろう。しかし、この映画ではそうはならない。勇吉は短絡的におかつを信用してしまうのだ。このように、この映画は”現実”を見てしまうと全く入り込めなくなってしまう。
ただ一方で、本作はこうしたドラマの過度な楽観志向を補正する上で、色々と工夫も凝らしている。その一番は独特の映像トーン処理である。これは中々面白い試みだと思った。
今作の撮影監督は五十畑幸勇。彼は後年の市川崑作品に欠かせぬカメラマンである。今回はかつて宮川一夫と市川崑が
「おとうと」(1960日)で試みた『銀残し』の手法を彷彿とさせるような、シルバーカラーのシックな映像処理が施されている。具体的には少し”くすんだ”色合いで、どこかノスタルジーを醸すような画作りになっている。物語からリアリズムを剥離し寓話性を付帯させ、見る側に<古来の家族>=<憧憬>を強く提示している。この映像トーンは、見る側にある種の割り切り、このドラマはあくまで作り物ですよ‥という建前を宣誓しているようなもので、ドラマの”臭み”を上手く中和していると思った。
キャストでは、おかつを演じた岸恵子が印象に残った。岸恵子と言えば、先述した「おとうと」の姉役が印象的だが、このキャスティングから見ても、先述の独特の映像処理は「おとうと」のオマージュと見ていいだろう。
ただ、彼女を含め全てのキャストに言えることだが、個々の演技は概ねバタ臭い。それがかえってこの物語には合っている‥という言い方は出来るが、純粋に演技そのものを評価するとなると、どうだろうか‥。好き嫌いが分かれそうな気がする。
尚、飲み屋の常連4人組は良い味を出していた。