戦時下におけるメロドラマだが中々衝撃的な内容。
KADOKAWA / 角川書店 (2014-06-27)
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「清作の妻」(1965日)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 一家の生計を支えるため、お兼は呉服商の老主人の妾になった。ところが、老主人は大金を残し他界。お兼は家族の待つ村へ戻るが、村人たちから冷たい目で見られる。ある日、村に兵役を終えた清作が戻ってくる。模範青年として一生懸命働いた清作は、村人たちから絶大な信頼を得ていく。そんな中、お兼だけは彼に振り向かなかった。清作はそんなお兼に惹かれていく。
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(レビュー) 悲劇的な運命を背負った女と模範青年の禁断の愛を硬質なタッチで描いたロマンス映画。
周囲に反対されながら固い絆で結ばれていく男女の悲恋は、実にシンプルに展開される。ただ、物語の背景には戦争が存在する。これがこのメロドラマを骨太にしており、男女の恋情をファッションのよう軽視していない所が面白いと思った。
更に、この映画は偏見と閉塞感に満ちた古き村社会の因習に対して痛烈な批判もしている。今作と大島渚監督の作品
「飼育」(1961日)は、ある意味では共通したメッセージを放った作品のような気がする。両作品を比べてみると面白いかもしれない。
映画序盤は、お兼が落ちぶれていく様をダイジェスト風に綴った展開で、正直今一つといった印象である。彼女が家計を支えるために泣く泣く豪商の妾になり、父が死に、それを追うようにして母も死に、親戚の知的障害の青年を引き取って、”汚れた女”として村八分にされる。こうした一連の経緯が足早に綴られている。確かにバックストーリーとしては十分にプレマイズされているが、その不遇に今一つ真実味が感じられない。
ただ、物語はここからが本番である。村に模範青年の清作が戦争から帰ってくる。彼はお兼を可哀想に思って色々と面倒を見るのだが、周囲は当然それを面白く思わない。メロドラマとしては実にオーソドックスに作られているが、2人の蜜月が中々スリリングで面白く見れた。
そして後半、日露戦争が開戦し清作は再び戦場へ旅立って行く。一人取り残されたお兼は、村人からの嫌がらせを受けながら清作の帰りを待ち続けるのだが、これが実に不憫極まりなかった。
そして、清作が負傷して一時帰国すると、ここから更に物語は凄まじい展開に入っていく。愛のために、なりふり構わず狂気に走るお兼にゾッとさせられた。愛とは実に恐ろしいものである‥と実感させられ衝撃的である。
監督は増村保造。氏らしいラジカルさは後半の展開に見られる。また、登場人物たち夫々を活き活きと演じさせた手腕も素晴らしく、特に知的障害の青年はお兼と清作の間に立つ絶妙な立ち位置で、彼の顛末も見応えがあった。
また、清作が戦争から帰って来た時に買ってきた”鐘”の意味を考えてみると、このドラマは更に感慨深く見れる。
この鐘は、最初は軍隊式の起床を促す道具として使われる。その次に、お兼が戦場へ行った清作を思い偲ぶ品となる。そして終盤、それが清作の手によって投げ捨てられる。清作によって村にもたらされた戦争の象徴たる”鐘”が、ラストで「反戦」メッセージを唱える象徴に変わるのだ。小道具の使い方はこうするんですよ‥という、正にお手本のような作りになっている。
増村作品のミューズとも言える、お兼を演じた若尾文子の妖艶さも絶品だった。悲壮感を漂わせた演技が続くので、一本調子な感じを受けなくもないが、さすがにそこは増村&若尾である。清作とのラブシーンにおける恍惚とした表情。そして、愛に捕われ正気を失っていく後半の凄まじい形相。このあたりのインパクトは絶大であった。