B・アフレックの監督デビュー作。エンタメと社会派的メッセージを見事に両立させた傑作。
ワーナー・ホーム・ビデオ (2013-03-13)
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「ゴーン・ベイビー・ゴーン」(2007米)
ジャンルサスペンス・ジャンル社会派
(あらすじ) ボストン郊外で4歳の少女アマンダが誘拐される。マスコミに報道され騒然とする中、母ヘリーンは犯人に娘を返してほしいと訴えた。それをテレビで見ていた地元の私立探偵パトリックの元に、アマンダの伯父夫婦がやって来る。今回の事件を警察だけに任せてられないと、彼らはアマンダ捜索を彼に依頼した。パトリックは相棒で恋人のアンジーと共に早速、捜索を開始する。事件を担当するレミー刑事と情報を交換しながら二人は犯人を探り出していくのだが‥。
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(レビュー) 女児誘拐事件を捜査する私立探偵の姿を端正に綴った社会派ミステリー映画。
原作はC・イーストウッド監督の傑作「ミスティック・リバー」(2003米)でも知られるデニス・ルヘイン。「ミスティック・リバー」もかなり衝撃的な内容のサスペンス映画だったが、今回も見終わった後にズシリと心に響いてくる重厚な作品である。
監督・共同脚色はこれが初演出となる俳優のB・アフレック。鑑賞順は前後してしまったが、先に
「アルゴ」(2012米)、
「ザ・タウン」(2010米)を観ているので、彼の演出手腕については何も心配することはない。今回も実に堅実にまとめられていると思った。
例えば、冒頭のオープニング・タイトル。ボストンの街並みをライブ感あふれる映像で綴ったシークエンス。一見何気ない風景が続くが、そこで生活する人々の姿が、これから起こる悲惨な事件にリアリティをもたらしている。物語の舞台へ入り込む上でも実にスムーズな導入部で、特に捻りは無いものの、この飾らなさがドラマのリアリティを下支えしている。ちなみに、今回の舞台であるボストンはB・アフレックの故郷だそうである。「ザ・タウン」もボストンが舞台だった。
緊張感を作り出す演出も見事である。
例えは、パトリックが地元のバーに聞き込みに行くシーン、彼が麻薬の元締めと取引するシーン。このあたりのピリピリするような緊張感は実に素晴らしい。
一方で、さりげないユーモアも見られ、このあたりも如何にもアフレックらしい卓越した手腕が感じられる。
例えば、へリーンの家の前でリポートしているキャスターの下半身がパンツ一丁だったのには笑ってしまった。主人公パトリックの日和見なキャラクター造形も、どこかユーモラスである。ただ、今作は基本的にシリアスな作品なので、コメディ・タッチはそれほど多くは無い。基本的にはシリアス路線で押しており、このあたりのさじ加減も絶妙だと思った。
音楽も不穏で◎。後半で幾つか前面に出てくるが、基本的には静かにバックに流れるのみで、それが先述した緊張感にも上手く奏功していた。
一方、物語は軽快且つ簡潔にまとめられている。事件の捜査の影に意外な黒幕を突き止め‥という展開は、この手の探偵物ではよくある常道だが、今の時代にこのクラシックなプロットを生真面目にやってしまった所がたまらない。二転三転するどんでん返しを含め、個人的には最後まで面白く追いかけることが出来た。
難を言えば、終盤にかけて突っ込み所が出てくることだろうか‥。
例えば、パトリックが第2の誘拐事件に関わっていく理由が今一つ分からない。彼の心理説明がシナリオ上、完全に省略されてしまっているからである。これは説得力に欠けると思った。
また、事件の解決シーンにも引っかかる演出があった。パトリックは明らかに犯人を後ろから撃っている。これはまずいだろう。検視すれば一発でアウトである。
あるいは、終盤のアンジーの心変わりにも説得力が感じられなかった。ここも丁寧な描写が欲しい。
更に、アマンダ誘拐事件を引き起こした犯人の行動も、全てを見終わった後では白けてしまう。犯人は全てが上手くいくと思ったのだろうか?いつまでも隠し通すことなどできないと思うのだが、そこを鵜呑みにした所に、この犯人の未熟さが伺える。
こうした疑問符、不満点は、単純に説明不足からくる物語上の”解れ”に他ならない。したがって、丹念に描写を積み重ねていけば解決できるはずだと思う。上映時間が無駄に長くなってしまうのは考え物だが、ドラマのリアリティを獲得するためなら、そこは臆せずに作り込んでほしい。たとえ長くなっても面白い映画はやはり面白いのだから‥。
ラストは秀逸だと思った。正に本作のメッセージはここに集約されていると言っていいだろう。子を持つ親であれば心痛極まってしまうのではないだろうか。心にズシリと響いてきた。
キャストでは、パトリックを演じたK・アフレックが中々に良かった。決して派手なパフォーマンスを披露するわけではないが、童顔の私立探偵という特殊性に面白味を感じた。ペットの捜索しかしたことがないと自分で言ってるくらいだから、探偵というよりほとんど便利屋に近い仕事をしているのだろう。その頼り無さげな所も含め、我々一般人に近い親近感を覚える。
へリーンを演じたエイミー・ライアンは今作で一番の存在感を見せていた。彼女は最初から母親失格な愚かな女である。それどころか、最後まで全く懲りておらず、ある意味で誘拐犯よりも更にタチの悪い女と言えよう。このドラマにおいては完全にラスボス的な悪役となっている。そして、彼女のこの”凝りなさ”が、本ドラマのテーマを皮肉的に物語っているように思った。