ブラジル発の硬派な社会派アクション作品。
トランスフォーマー (2011-12-02)
売り上げランキング: 26,470
「エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE」(2010ブラジル)
ジャンルアクション・ジャンル社会派
(あらすじ) 南米有数の犯罪都市リオ・デ・ジャネイロ。日夜マフィアの取り締まりに明け暮れる軍特殊警察BOPEの隊長ナシメントは、刑務所で暴動が起きたという知らせを受けて急行する。そこには人道支援家として有名なフラガも来ていた。実は二人は公私にわたって深い因縁関係にあった。しかし、今は協力し合う時と踏んで、ひとまず暴動の鎮圧に務めた。ところが、ナシメントの部下が命令を無視して発砲したため銃撃戦が始まってしまう。多くの死傷者が出てナシメントは責任を取って保安局に左遷させられる。しかし、彼はそこでもマフィア撲滅に執念を燃やしていく。
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(レビュー) マフィアの撲滅に執念を燃やす捜査官の戦いを強烈なバイオレンスで描いたアクション作品。尚、今作は「エリート・スクワッド」(2007ブラジル)の続編である。
自分は前作は見ていないが、それでも今回の映画は面白く見れた。前作から引き継がれている諸々の設定はあるのだろうが、特に知らなくても単品として十分楽しめる。
さて、リオ・デ・ジャネイロの治安の悪さと言えば世界的にも有名だが、個人的には2002年に製作され話題を呼んだ「シティ・オブ・ゴッド」(2002ブラジル)を見て衝撃を受けた口である。警察とマフィアが根深く癒着していたことに驚かされた。つい先日、サッカーのワールドカップが開催されたというのが信じられないくらいである。
もっとも、政府はこの大会に合わせて大々的な改善を進め、「シティ・オブ・ゴッド」の公開時より随分治安は良くなったようである。しかし、ブラジルではもう一つの世界的な催し物が予定されている。それが2016年に開催される夏季オリンピックだ。現状はまだまだ治安が良いとは言えない状態であり、今後は更に街の浄化は進められていくのだろう。‥というかそう願いたい。
今作の主人公ナシメントは、そんな警察とマフィアの蜜月を駆逐せんと、日夜戦う熱血捜査官である。しかし、敵は余りにも巨大であり、彼個人の力ではとても太刀打ちできない。彼は徐々に四面楚歌の状態に追い詰められ孤独な戦いを強いられていくようになる。カメラはそれをドキュメタリータッチで切り取っている。その姿は実にスリリングであり、尚且つヒロイック的な頼もしさも感じられた。また、激しいバイオレンス・シーンも”見世物”としては中々衝撃的であり、全体的にエンタメとしてよく出来ていると思った。
更に、犯罪撲滅というプロパガンダ的なメッセージも十分伝わってきた。社会派作品として見ても水準以上の映画となっている。
ただし、エンタメと言っても、本作は見終わった後に決して爽快感が得られるタイプの作品ではない。
ナシメントがいくら犯罪組織を潰してもすぐに新しい組織が誕生し、結局、堂々巡りの状況が続く‥という終わり方になっている。したがって、万事解決という結末になっていないためカタルシスは薄い。
もっとも、こうした結末には製作サイドの気概を感じた。絵空事のハッピーエンドにせず、リアリティを重視した結果であり、映画が伝えるメッセージはズシリと胸に響いてくる。
こうしたモヤモヤとした鑑賞感が続く作品であるが、しかし唯一カタルシスを覚えるシーンもあって、個人的にはそこには感動を覚えた。それは終盤の公聴会のシーンである。それまで主張を異にしていたナシメントとフラガが、警察の腐敗をなくすために初めて共闘するのだ。
元々、ナシメントはマフィアのような悪は武力で制圧すべしという考えの持ち主で、軍警察の精鋭部隊BOPEを率いて日夜戦ってきた男である。一方のフラガはナシメントと逆で、マフィアと対話することで問題解決しようという姿勢を持っている。言わば、この両者はタカ派とハト派、水と油の関係なのである。
また、2人はプライベートでも因縁の関係にある。ナシメントの妻子は彼の元を離れてフラガと再婚した経緯がある。彼らの間に一体何があってそうなったのかは謎であるが、もしかしたらこのあたりの詳しい事情は、未見の前作で描かれているのかもしれない。いずれにせよ、ナシメントとフラガはプライベートでも憎しみ合っている。
そんな対立関係にある二人だが、しかし目指す所は共通していて、最終的には政治の腐敗とマフィアの暗躍を無くすという社会浄化である。彼らのそんな思いがこの公聴会のシーンで結実する。この<対立>→<融和>のドラマには胸が熱くなった。
人間ドラマという事に関して言えば、ナシメントと彼の息子の親子愛も中々に良かった。先述の通り、ナシメントは息子をフラガに奪われてしまったわけだが、それでも定期的に会うことが赦されている。息子はどちらかと言うとフラガ寄りのリベラル派で、ナシメントとはそりが合わない。二人のやり取りは終始ぎこちなく、そこにナシメントの父としての寂しさが表出する。こちらも終盤で”ある事件”が起こり目が離せない展開が用意されている。
監督・共同脚本はジョゼ・パヂーリャ。彼のことを初めて知ったのは、バスジャック事件を追いかけたデビュー作「バス174」(2001ブラジル)というドキュメンタリー映画である。その時から臨場感にあふれた演出に並々ならぬ才気を感じたが、今回もそのタッチは健在である。スピーディーでスリリングなトーンが貫通されており、終始目が離せない作品に仕上げられている。卓越した演出力は今回の作品を見て改めて再認識させられた。
尚、パヂーリャは今作が評価されハリウッドへ渡り「ロボコップ」(2014米)の監督に大抜擢された。記憶に新しい人も多いだろうが、残念ながらこの映画は興行的にも批評的にも今一つの結果となってしまった。未見なので何とも言えないが、パヂーリャの場合は既存のハリウッド式な作品作りは合わないような気がする。むしろ、オリジナルのシナリオで撮った方が上手くいくのではないだろうか。作家性の強い監督とは得てしてそういうものである。