新しいイメージで作られたホームズ映画。
ワーナー・ホーム・ビデオ (2011-07-20)
売り上げランキング: 7,357
「シャーロック・ホームズ」(2009米)
ジャンルサスペンス・ジャンルアクション
(あらすじ) 19世紀末、ロンドンでは若い女性が次々と不気味な儀式を思わせる手口で殺されていた。ロンドン警視庁が捜査に手こずる中、名探偵シャーロック・ホームズとその相棒・ワトソンの活躍で事件は解決する。犯人は邪悪な黒魔術を操るブラックウッド卿だった。彼はすぐに復活すると言い残して処刑された。その後、その言葉通りブラックウッドの仕業と思われる不審な事件が相次いで発生する。ホームズは再び事件の捜査に乗り出すのだが‥。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) アーサー・コナン・ドイルの小説「シャーロック・ホームズ」を現代風にアレンジして作られたアクション・サスペンス作品。
ホームズと言うと聡明でスマートでユーモアがあって‥というイメージを持っていたが、今作のホームズは大分趣が違う。人並み外れた推理力は当然持っているのだが、それ以上に格闘術に長けていてどんな強敵でも腕力で立ち向かっていくのだ。はっきり言って、今回は武闘派なホームズである。
同様のことは相棒であるワトソンにも言え、彼は元軍人という設定で銃の扱いがめちゃくちゃ慣れている。ワトソンと言えば、いつもホームズの後ろについて回るサポート役というイメージだったが、今作のワトソンはかなり活動的だ。
このように今作のホームズ&ワトソンは、従来のイメージから大分かけ離れている。もしかしたら、熱烈な原作ファンの中には、こんなの違う!と言って怒る人もいるかもしれない。
しかし、この原作はこれまでにも様々な形で翻案され、その都度作品のイメージは構築されてきた。そのことを考えれば、何も必ず原作に忠実でなければならないという必要は無い。これも一つの世界観‥と割り切って、個人的には今回の現代風なホームズ&ワトソンも面白く見ることが出来た。
ストーリーは、前半がもたつくものの、ブラックウッドの野望が判明する後半から徐々に盛り上がってくる。ホームズの元恋人アイリーンの立ち回りもストーリーを上手く掻き回し、このあたりは「ルパン三世」における峰不二子みたいで面白かった。
また、ホームズとワトソンのブロマンスを匂わした関係も中々面白かった。
例えば、クライマックスの手前、ブラックウッドと最後の対決に向かうホームズを、嫌々ながら応援するワトソンの心遣い。一方で、ワトソンが追いかけてくるのを見越してわざと彼の前に拳銃を置き忘れていくホームズのしたたかさ。このあたりの以心伝心振りは長年連れ添った夫婦のようであり、見ながら思わずニヤニヤしてしまった。
また、ホームズの超人的な観察力と洞察力には、フィクションならではの頼もしさも感じられた。特に、ブラックウッドの企みを次々と暴いていく終盤の推理劇にカタルシスを覚えた。全てのパズルのピースが収まっていく爽快感がある。
その一方で、得意の推理は時と場合によっては、彼の欠点ともなる。それを証明したのが、ワトソンの婚約者メアリーの過去を暴いてしまうレストランのシーンである。誰にでも触れられなくない過去はあるものである。しかし、ホームズは他人にお世辞を言ったり、気遣いをしたり出来ない男で、彼女の過去を根掘り葉掘りほじくり返してしまうのだ。彼の人物観察力、洞察力は対人関係においては諸刃の刃であり、この功罪をきちんと描いているあたりは面白いと思った。
監督はイギリス出身のガイ・リッチー。「ロック、ストック&スモーキング・バレルズ」(1998英)、「スナッチ」(2000米)等、彼の作品はこれまで何本か見てきたが、正直今作にはそこまで彼の作家性は出ていない。一頃はスタイリッシュさを売りにブイブイ言わせていたが、今となってはそのスタイルも別に斬新ではなくなってきた。今回は非常にオーソドックスな演出で統一されている。曲がりなりにも今作はビッグバジェットのハリウッド大作である。そのことを考えれば、これは妥当な選択であろう。おそらく本人も職業監督として割り切って演出したのだろう。
そのガイ・リッチーの手練が感じられるのが、数々のアクション・シーンである。中盤の精肉工場のシーン、終盤のつり橋のシーン。このあたりのスリリングなアクションには中々の見応えを感じた。
ホームズを演じるのはロバート・ダウニー・Jr.。
「アイアンマン」(2008米)のトニー・スターク役でハリウッドの第一線に復帰した彼が、その次に出演したのが今作である。ユーモアとセクシーさを前面に出したキャラクター造形は「アイアンマン」の成功あってこそ‥という気がした。今回も安定したパフォーマンスを披露している。但し、イギリス人らしさが余り感じれないのはご愛嬌である。
ワトソンを演じるのはJ・ロウ。随分と二枚目のワトソンだが、こちらもイメージの刷新には成功しているように思う。
一方、今作は女優陣が少々弱い。こちらにも、もう少しインパクトのあるキャスティングを望みたかった。主役の二人に比べるとどうしても存在感が薄いのが難点である。