実話を基にしたパニック・アクション作。
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン (2012-09-05)
売り上げランキング: 54,779
「アンストッパブル」(2011米)
ジャンルアクション・ジャンルサスペンス
(あらすじ) ペンシルヴェニア州の列車操車場。ベテラン機関士フランクと新人車掌ウィルは、この日初めてコンビを組んで機関車を運転することになった。その頃、同州の別の操車場では事件が起こっていた。運転士がブレーキ操作をミスして、最新鋭の貨物列車777号が無人のまま走り出してしまったのである。危険性の高い化学物質とディーゼル燃料を大量に積んだそれは、いつ横転してもおかしくないほどのスピードで疾走する。この暴走機関車を止めるために会社はある決断を下すのだが‥。
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(レビュー) 実話を基にしたパニック・アクション・ムービー。
尚、本作は先頃不幸な死を遂げたハリウッドのヒット・メーカー、トニー・スコット監督の遺作となる。
彼の作品を全て見ているわけではないので断定はできないが、少なくとも今まで自分が見てきた中では一番よく出来ていると思った。何と言っても、重量感あふれる貨物列車の暴走シーンの迫力と、それを必死になって止めようとする人々のドラマが感動的である。
また、今作の主人公フランクとウィルは、年齢も人種も異なるバックボーンを持っていて、その対比も人間ドラマに一定の深みを与えている。実は、2人とも夫々に家族問題を抱えた悩める人物たちである。シングルファザーのフランクは年頃の娘たちと疎遠であるし、ウィルは妻と離婚協議の真っ只中にいる。しかも、フランクは会社の経費削減でリストラされることが決まっていて、生意気な若造ウィルのことを毛嫌いしている。彼らは最初から対立関係にあるのだ。映画は、そんな二人の対立→友情のドラマをアツく語っている。その関係変遷にしみじみとさせられた。
物語の展開も歯切れがよくて大変見やすい。
冒頭の10分でフランクたちのバックストーリーを紹介し、そこからすかさず機関車の暴走という事件を起こしてサスペンスを切り出している。そして、見学に来ていた子供たちを乗せた列車と正面衝突しそうになったり、危険物が載積されていることが判明したり、暴走を止めようと鉄道会社のスタッフが”ある奇策”を実行に移したり、サスペンスとアクションの連続で物語を上手く転がしている。ジェットコースター・ムービーとは、かくあるべし。画面にグイグイと引き込まれた。
映画が後半に入ってくると、ようやく暴走機関車を止めるためにフランクたちが立ち上がる。物語の構成上、中盤まで主人公が事件に関わってこないのは流石にどうかと思ったが、機関車の暴走というサスペンスが盛り上がり切った所でいよいよ真打登場‥というプロット自体は決して悪くはない。
また、機関車は常に走り続けているので、緊張感は持続する。そのおかげで、フランクたちが事件に関わってこなくてもドラマ的にはそれほど退屈するわけではない。
一方、演出面では、かなり気になる箇所があった。これはトニー・スコット監督の悪癖としか言いようがないのだが、今回もカメラワークが異常なほど”軽い”。例えば、過度なズームアップはスリリングな場面にはハマるが、日常の場面にまでこれを持ち込んでしまっては、かえって不自然に感じられてしまう。また、フランクたちが乗った機関室をカメラがグルグル回り混むのも、せわしないカメラワークで落ち着かなかった。せっかく重量感に溢れた本物の貨車で撮影しているのに、カメラがこれでは勿体ない。もっとじっくりと腰の座ったカメラを望みたかった。
フランク役はD・ワシントン、ウィル役はC・パインが演じている。D・ワシントンは、トニー・スコットとは
「デジャヴ」(2006米)以来3度目のタッグとなる。これまで以上に発奮した演技を見せており、今回も息の合ったコンビ振りを証明している。
C・パインも、まずまずといった演技を披露している。
ちなみに、彼はクライマックスで果敢にアクション・シーンをこなしているが、実話が元になっているとはいえ、さすがにあの手動連結は”映画的”過ぎると感じた。この点を含め、今作はおそらく結構脚色している部分があるのではないかと想像できる。エンタテインメントに振り切ったことは決して悪くはないが、実話のリアリティを尊重した演出ではないので、そこは賛否が分かれるかもしれない。
尚、今作を見て黒澤明の原案をアメリカで映画化した「暴走機関車」(1986米)という作品を思い出した。主人公が中年の男と青年という年の離れたコンビである点が共通しているし、D・ワシントンが天高く両手を突き上げるクライマックスのカットが、「暴走機関車」のラスト。J・ボイトが両手を上げて雪の中に消えていく映像と重なって見えた。