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少年と自転車

孤児とシングルマザーの淡い情愛を丁寧に綴った秀作。
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KADOKAWA / 角川書店 (2015-05-20)
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「少年と自転車」(2011ベルギー仏伊)star4.gif
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 少年シリルは、自分を児童養護施設に預けて去った父を捜すために施設を出る。途中で出会った美容師サマンサの世話になりながら、父に売り払われた大切な自転車を買い戻してもらったシリルは、彼女に週末だけの里親になって欲しいと 頼む。こうして2人は週末ごとに父親捜しを始める。その後、ようやく父親を見つけ出すことが出来たのだが‥。

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(レビュー)
 父に捨てられた少年と孤独な女性の情愛を静謐なタッチで描いた人間ドラマ。
 ベルギーの巨匠ダルデンヌ兄弟の作品だけあって、ズシリとした重みのある佳作に仕上がっている。

 物語はいたってシンプルである。自分を捨てた父の愛を取り戻すために幼い息子シリルが奮闘していく‥というドラマである。ダルデンヌ兄弟はこれをナチュラルに切り取りながら、シリルの胸中にストレートに迫っていく。父に避けられてもなお、愛を請うシリルの姿が実に切なく見れた。

 そして、この物語には、そんなシリルを助けるキャラクターとして、サマンサという女性が登場してくる。彼女は美容室を切り盛りしながらシングルライフを満喫している中年女性である。一応、恋人らしき男性が登場してくるが、彼との関係はアッサリとしか描かれていない。サマンサは結婚適齢期を少し過ぎた女性であるが、どちらかと言うと結婚よりも仕事に生きるタイプの女性のように見えた。そんな彼女がシリルと出会ったことで、徐々に母性を開眼させていく所が、この映画のもう一つの見所である。結婚願望の薄いサマンサが、赤の他人の子供の世話をするうちに彼女自身の生き方に変化が訪れる。その変遷が面白く見れた。

 尚、今作を見て同じダルデンヌ兄弟の過去作「ある子供」(2005ベルギー仏)という作品を思い出した。「ある子供」は、自分の赤ん坊を売り払った父親と母親の葛藤を描いた作品である。そこでもやはり親子の絆というのがテーマになっていた。あるいは、彼らの作品で「ロゼッタ」(1999ベルギー仏)という映画がある。これも今作のシリルと同じように、親に見放された子供が主役だった。

 このようにダルデンヌ映画の中には、家族や社会からドロップアウトした子供たちを主人公にした映画が多い。いずれもネグレクトを世に知らしめるべく製作された社会派的な眼差しを持った作品であり、今作は明らかにこれらの作品の延長線上にあると言っていいと思う。

 ただ、例に挙げた過去作はいずれも苦々しい鑑賞感を残したが、今回の映画はどこか清々しい締め括り方になっている。親や社会から見放された子供たちに救いの手を差し伸べながら、映画は明るい希望を予感させて終わる。これまでとは一線を引いたエンディングには、ダルデンヌ兄弟の創作姿勢の転換が感じられる。次回作以降の作品が気にかかる。尚、今作の次に撮られた「サンドラの週末」(2014ベルギー仏伊)は未見である。機会があればいずれ見てみたい。

 演出はこれまで通り手持ちカメラによるドキュメンタリータッチが徹底されている。映像に生々しさ、臨場感が感じられ、グイグイと画面に引き込まれた。父に捨てられた少年の心の襞を繊細になぞる、そのスタイルはこれまで通り説得力が感じられた。また、サマンサの過去の悔恨、葛藤にも自然とすり寄ることが出来た。二人の間で築かれる疑似母子愛には心が洗われた。

 シナリオも饒舌に展開されている。今回もダルデンヌ兄弟自身が書いているのだが、この無駄のないストーリーには脱帽である。元々シンプルなドラマとはいえ、上映時間90分弱でここまで情感を際立たせたのは見事と言うほかない。

 また、今回のシナリオは省略の仕方も光っていた。例えば、サマンサが自転車を買い戻してくれた過程、父親と会う約束を取り付けるまでの過程、シリルと近所の不良少年グループとの過去の因縁、シリルと移民少年ムラッドとの交友。こうした所は細かく描いていない。それでもドラマを語る上では特に支障をきたしていない。ダルデンヌ兄弟は省略できるものは大胆に省略し、物語を流麗に展開させることに専念している。あるいは、そうすることによって、物語は更にスリリングに展開されていく‥という事を彼らは良く知っているのだと思う。

 また、小道具の使い方も抜群に上手かった。
 例えば、携帯電話の使い方、一つとっても唸らされるものがある。オープニングはシリルが父に電話をかけるシーンから始まる。そして、ラストはサマンサからシリルに電話がかかってくる所で終わる。冒頭と結末を携帯電話で締めくくっているのだが、同じ携帯電話でも両方の意味する所はまるで正反対なのが面白い。オープニングの携帯電話は、シリルの父に対する求愛コール、つまり未成熟で甘えん坊な彼の心の弱さを表す物として使われている。これに対して、ラストの電話はシリルの成長を喚起させる物。理想の挫折と現実の認識を通して大人に一歩成長した‥ということを表す物として使われている。つまり少年の成長を携帯電話というアイテムで表現しているのだ。

 また、今作のタイトルにもなっている自転車の使い方も抜群に上手かった。自転車はシリルと父を結びつける大切な思い出の品である。そして、シリルとサマンサの出会いのきっかけを作るものでもある。更には、シリルが不良グループの仲間に入るきっかけにも使われていた。このうように自転車は様々な局面で重要な働きを示し、常にシリルの傍に寄り添いながら彼の成長を促すアイテムとして存在している。
 尚、この自転車が最も印象的に使われていたのが、シリルとサマンサがサイクリングをするシーンである。今作はほぼ全編通して閉塞感漂う小さな町で展開されているのだが、唯一このシーンだけは開放感に溢れたロケーションの中で撮影されている。2人の心の絆がよく伝わってくる名シーンだと思う。

 今作で雑と感じたのは1点のみ。強盗のシーンである。ここだけは妙にコントチックで見てて苦笑してしまった。例によって手持ちカメラによるドキュメンタリータッチが狙われているのだが、何とも能天気である。バットで殴られた男があっという間に気絶してしまうなど、リアリティに欠ける演出が”らしく”なかった。
[ 2015/08/08 21:31 ] ジャンル青春ドラマ | TB(0) | CM(0)

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