豪華キャストで描く超大作。
ポニーキャニオン (2013-03-20)
売り上げランキング: 38,744
「黒部の太陽」(1968日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 昭和31年、関西電力は黒四ダム工事を開始することを決定する。熊谷組の下請け会社社長・岩岡源三と間組の国木田は、現場責任者・北川の家を訪ねて工事への意気込みを語った。そこに源三の息子・剛が呼び出される。過去の怨恨から父を憎んでた剛は、今や設計士として立派に独立していた。その彼が今回の工事の難しさを指摘する。それから半年後、いよいよ黒四ダムの工事がスタートする。北川たちは大自然と格闘しながらトンネル掘り始めるのだが‥。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 同名小説を三船プロと石原プロが共同で製作し、豪華キャストで作り上げた3時間超えの超大作。難工事だった黒部ダムの建設をリアリズム溢れるタッチで描いた話題作である。
実は、今作は長らくソフト化されていなかったことでも有名な作品である。その理由は、主演した石原裕次郎が「この映画はスクリーンで見てほしい」という言葉を残したからである。そのため見る機会と言えば、一部の劇場でリバイバル上映されるくらいしかなかった。しかも、公開当時の完全版ではなく、海外公開用に短縮されたヴァージョンでしか上映されてこなかった。そのためファンの間では長年、幻の作品と言われた。
しかし、近年になってようやく完全な形としてノーカット版がリバイバル上映されるようになり、ソフト化もされることになった。ファンからしてみれば、待ちに待ってた作品と言うことが出来よう。今回自分が見たのも完全版の方である。
そんないわくつきの作品であるが、実際に見てみると確かに石原裕次郎が生前に語っていた様に、スクリーン映えするようなスペクタクル・シーンがたくさん登場してくる。今回自分が鑑賞したのはテレビだったので、直にそれを味わえなかったが、これはぜひ一度は映画館で見てみたいと思った。
特に中盤、軟弱な岩盤帯にぶつかって掘削が思うようにいかないシーンの迫力たるや凄まじい。今のようなCG全盛の時代では決して味わえない、本物の迫力が感じられる。映像の作り込み、演者の迫真の演技には頭が垂れる。このトリックなしの臨場感あふれる映像は、やはりテレビよりも大画面で味わいたかった。
一方、ドラマはと言うと、3時間半弱という長尺の割に、かなりシンプルにまとめられている。トンネルを掘る姿をドキュメンタリータッチで追いかけるという体になっており、そこに絡んだ人間ドラマ、キャラの葛藤は起伏に乏しい。
剛と北川の娘のロマンス、宇野重吉と寺尾聡が実の親子役で競演する父子ドラマといったサイド・ストーリーも用意されているが、どちらも中途半端な扱いで勿体なかった。
後者に関しては、おそらく本作の製作に助力したことによる石原プロからのプッシュがあったのかもしれない。当時の石原プロは資金繰りに難航していたそうで、そこに宇野重吉が協力したという資料が残っている。ちなみに、宇野と寺尾の父子はラストシーンにも登場してくるが、これも製作サイドが気を利かせた結果なのかもしれない。どうにも取ってつけたように見えてしまった。
そんな中、一番興味深く見れたのが、岩岡源三と剛の父子ドラマだった。二人の確執は序盤から熱気にあふれ、後半に入ってくるとそれが少しずつ軟化していく。一緒に同じ仕事をしていくうちに仲間意識みたいなものが芽生えてくるのだ。その変遷に見応えを感じた。更に、これに絡んで描かれる剛と北川の義理の父子愛。これも中々ドラマチックだった。
監督・共同脚本は名匠・熊井啓。いかにも氏らしいリアリズム溢れるタッチが今回も堪能できる。ロングテイクを駆使しながら演者の心境に肉薄してく所にも魅せられた。
尚、wikiによれば撮影時に怪我人が出たと書かれている。身体を張った危険なアクション・シーンが随所に出てくるので、それはそうだろうと思った。一番危険と思ったのは、工員たちが”てっぽう水”に巻き込まれて流されてしまうシーンである。画面が途中でストップモーションに切り替わるのだが、もしかしたらここで例の事故が起こったのかもしれない。