心が洗われるような青春ロマンス映画。
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D) (2011-01-21)
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「裸の太陽」(1958日)
ジャンルロマンス・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 機関士助手の木村と恋人のゆき子は、将来結婚を約束しているカップルである。少ない給料から少しづつ結婚資金を貯めていたある日、木村が同僚で幼馴染の前田から金を貸してほしいと頼まれ、貯金をすべて貸してしまう。本当はゆき子と一緒に海水浴に行く予定だったが、それもふいになってしまった。怒るゆき子をなだめる木村。その時、彼らはビアホールで酒を飲んでいる前田の姿を目撃してしまう。木村と前田は、たちまち大喧嘩となり警察に連行されてしまう。
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(レビュー) 若い機関士助手と恋人が深い絆で結ばれていく様を、ユーモアとペーソスで綴った青春ロマンス作品。
脚色・新藤兼人の流麗なセリフ回し、監督・家城巳代治の豪快且つユーモアに溢れた演出、撮影・宮島義勇の安定したカメラワーク。全てがハイクオリティに完成された傑作である。
確かに今の時代から見ると朴訥としすぎていて嘘っぽく感じられるかもしれない。しかし、これだけ堂々と若者たちの希望に溢れた姿を見せられると思わず襟を正したくなってしまう。画面から伝わる若さと生命力に愛おしさを覚えた。
一番印象に残ったのはクライマックスシーンである。傾斜のきつい坂を列車が走るのだが、線路に巻かれるはずの砂が上手く出ず、木村が自分の手で砂を巻く。この過酷さといったらない。夏の日差しが照り付ける中、汗と炭にまみれながら必死に線路の上に砂を巻くのだ。坂を上り切るのはまだまだ先である。その間ずっとこの重労働が続く。
映画はこのシーンを非常に”ねちっこく”描いている。明らかに作品のテーマをこのシーンに集約せんとする目論見が伺える。
自分は、このシーンに木村とゆき子の未来を見た。コツコツと溜めた大切な結婚資金を失い、唯一の愉しみだった海水浴旅行もふいになり、彼らは落胆する。しかし、前田に貸した金の使い道が分かり、彼らは考えを改める。そして、前に向かって進むことを決意するのだ。
度重なる不幸にもめげず、希望を求めて突き進む彼らの”前進”は、まさにこのシーンにおける列車の滑走と同じである。自分はそこに感極まってしまった。
情にもろく熱血漢な木村。そんな木村に振り回されながらも、心の底から彼を慕うゆき子の”いじらしさ”。こうしたキャラクターの好印象も重要なポイントである。2人の活き活きとしたやり取りが自然にドラマへの感情移入を誘導する。特に、公園のキス・シーンが初々しく撮られていて良かった。これも古き良き時代の趣と言っていいだろう。
そして、ラストの二人にも愛おしさを覚えた。海へ行けなかった彼らがどこへ行ったかというと‥‥‥。なるほどそう来たかと思わず膝を打った。尚、ここでの洒落を利かせた”ある演出”にも思わずニヤリとさせられた。
ユーモアということで言えば、2人が水着を買うシーンも中々面白かった。ここでの店主の粋な計らいは洒落が効いてて良い。
他にもこの映画の中には、洒脱の効いたシーンが幾つかあって、例えば機関士たちの寮で奏でるギターの音の使い方も中々上手いと思った。このあたりはライター・新藤兼人の巧みさであろう。
キャストでは、前田を演じた仲代達矢が印象に残った。周囲が喧騒の演技一辺倒の中、ただ一人重めの演技を貫いている。それが、かえって前田というキャラクターを際立たせ、キーパーソンとしての存在感を発揮していた。ただし、終盤の泣き崩れる演技はもう少し抑制して欲しかった。どうにも芝居が過剰で白けてしまう。
木村役の江原真二郎、ゆき子役の丘さとみも夫々に好演している。
また、この当時の中堅俳優も中々良い演技を見せている。機関士を定年退職してアイス売りをしている東野英治郎、木村たちを温かく見守る花沢徳衛。彼らの味のある演技も抜群に良かった。