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太陽の墓場

ドヤ街を舞台にした青春ドラマ。
あの頃映画 太陽の墓場 [DVD]
松竹 (2012-12-21)
売り上げランキング: 75,551

「太陽の墓場」(1960日)星3
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ)
 大阪のバラック小屋が立ち並ぶドヤ街。愚連隊・信栄会の会長をつとめる信は、一帯を取り仕切る大浜組の目を盗んで、日雇い労働者から採った血を売って小遣い稼ぎをしていた。この仕事を手伝っているのがドヤ街に住む花子という少女である。彼女は、自称”動乱屋”が現れて周囲の住人を束ねると、信栄会の信を頼った。一方、信の子分ヤスが、武と辰夫という二人の若者を連れてくる。しかし、元々、気弱な武は組に馴染めず足を洗おうとする。彼はそこでとんでもない事件に巻き込まれてしまう。

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(レビュー)
 戦後のドヤ街を舞台にした青春群像劇。

 非常に荒々しいトーンが貫通されたバイタリティに溢れたドラマである。戦後日本の混乱ぶり、焼け野原から再建し高度経済成長を成し遂げていく機運みたいなものが、画面全体から感じられた。この喧騒と混乱は今村昌平監督の作品を連想させられる。氏も人間の欲望を赤裸々に撮った名匠だが、それとの共通性が感じられる。

 物語の季節は暑い夏。これも画面に異様な熱気を漂わせている。出てくる人物は皆、汗だくで薄汚い服装を着て、埃にまみれながら叫び、駆けまわる。彼らは、貧しさから少しでも這い上がろうと他人を裏切り、悪行に手を染め、殺人まで犯す。今の日本では想像できない混沌とした世界が、ここには広がっている。

 物語の中心となるのは、ドヤ街で血液の密売をしている信というヤクザである(ただし、後述するが主役は武の方にある)。彼は親分の目を盗んでルンペンを集めて血液銀行を開業する。しかし、そこを子分のヤスに裏切られ、窮地に立たされる。ヤスの顛末が悲惨である。若者の刹那的な生き様とはかくありなん。暗澹たる思いにさせられた。

 また、ドヤ街に居座る自称”動乱屋”も外面は良いが、腹の底では大変恐ろしいことを考えている”タヌキ爺”である。彼は手りゅう弾を武器に住人たちを掌握し、信栄会に対抗しようと画策する。腹の底がどす黒い策士である。

 更には、花子は金のためなら何でもする”したたか”な少女で、その根性も実に天晴だった。

 このように、信を初め、ここに登場してくる人物は皆、良くも悪くもバイタリティに溢れた人間ばかりで、彼らが画面を席巻することで映画全体が非常に”暑苦しく”なっている。今村昌平の監督デビュー作「盗まれた欲情」(1958日)に匹敵する『喧騒の映画』だと思った。

 そして、そんな中、ただ一人純情を貫く少年が、この映画の中には登場してくる。それが信栄会に無理やり入れさせられた武という少年である。彼はとても気の優しい少年で、今のヤクザな暮らしが性に合わず組織から抜け出そうとする。ところが、ある殺人事件に加担させられたことで、足抜けが不可能になってしまう。彼はこの荒んだ世界を生きるには余りにも優し過ぎる少年である。その姿を見ていると何とも居たたまれなかった。

 武の顛末を描くクライマックス・シーンも印象的だった。この場面は、彼と一夜の愛に燃えた花子の姿も良い。武のこの顛末を目の当たりにした彼女が見せたリアクションと表情。普通であれば悲しみを見せるのが普通であろうが、彼女はまるで蔑むような表情を見せる。冷血な女と言ってしまえば確かにそうだが、他人に同情していたらこの世界は生き抜いていけない。彼女はラストで武の愛を突き放して、我が道を突き進んでいくのだ。実に凄い女である。

 監督・脚本は大島渚。松竹ヌーヴェルヴァーグの一躍を担い、独自の作風を確立していった大島は、この後に「日本の夜と霧」(1960日)を撮って会社と対立。松竹から独立する。「日本の夜と霧」は、余りにも個性が強すぎて興行的には失敗してしまったが、この作品ではそこまでの独特な感性は見られない。難解な演出もなければ、政治的な発言も少なく、大変見やすい作品となっている。

 また、幾つか目を見張るショットがあり、例えばドヤ街の食堂のシーンは印象に残った。そこに住むほとんどの人が、ここに集って酒を飲んでいるのだが、そこに花子がやって来て一悶着起きる。これを大島は1ショットで紡いで見せる。この臨場感に手に汗を握ってしまった。後の大島渚の特徴、ロングテイクの片鱗が見て取れる。

 また、ヤスの死体を川に捨てるショット、大阪の街を一望するカメラワーク等、息をのむような美しい画面も印象に残った。

 キャストはアクの強い面々で揃えられている。大島渚作品の常連、渡辺文雄、佐藤慶はここでは脇役に徹している。彼らの代わりにメインを張るのは、当時二枚目俳優として売り出し中だったロカビリー歌手の佐々木功である。彼は本職は歌手だが、俳優としても幾つかの作品に出演している。初々しい演技で武を好演していた。また、独特の低音ボイスで故郷を偲ぶ歌も披露している。

 そして、何と言っても強烈だったのが、花子を演じた炎加代子である。自分が彼女の出演作で初めて見たのは今村昌平監督の「にっぽん昆虫記」(1963日)だった。しかし、その時は端役で全然気づかなかった。それが今回はメインヒロインである。周囲の男達に屈しない強気でしたたかな振る舞い、鋭い眼光が目に焼き付く。残念ながら、彼女の俳優としての仕事歴はそれほど長くなく、今では完全に引退してしまっている。こうした強烈な個性を持った女優は大変貴重だと思う。早々の引退が残念である。
[ 2015/08/21 00:43 ] ジャンル青春ドラマ | TB(0) | CM(0)

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