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変奏曲

オール海外ロケで綴った幻想的なメロドラマ。
変奏曲 [VHS]
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「変奏曲」(1976日)星3
ジャンルロマンス・ジャンルエロティック
(あらすじ)
 夏のパリ。夫が単身赴任中で暇を持て余していた主婦・杏子の前に、かつての恋人・森井が現れる。2人は大学時代に付き合っていたが、学生運動にのめり込んだ森井が彼女の前から去った。彼は今でも国際的な政治組織に所属し革命運動を続けていた。その後、2人はパリを離れて、ひと夏のアバンチュールに出かけるのだが‥。

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(レビュー)
 ドラマ自体は至ってシンプルな不倫劇なのだが、作品全体を包み込む幻想的なトーンが中々魅力的な作品である。

 監督・共同脚本は中平康。以前紹介した傑作「月曜日のユカ」(1964日)同様、氏のラジカルな感性が炸裂した異品で、この”たわいもない”不倫旅行が一種の幻想奇談のように見えてくる所が面白い。こうした雰囲気で撮られたロード・ムービーは中々珍しいのではないだろうか。舞台がヨーロッパということもあり、何となくM・アントニオーニの映画を想起した。

 ただ、確かに見ようによってはダラダラとした不倫旅行に過ぎない‥という印象になってしまう。避暑地を遊覧したり、途中で出会った別のカップルとスワッピングしたり、とりとめもない展開に終始し、旅で出会う人物や事件がドラマチックな感動を呼ぶわけではない。また、森井の政治闘争についても、それほど深く触れられず、ひたすら安穏とした旅の日々が続くだけである。

 しかし、そうした道中の”つまらなさ”はあっても、クライマックス以降の展開は白眉の出来栄えで、これには目が釘づけになった。
 杏子たちは旅先で、教会で行われる音楽祭を聴くために夜の街を彷徨い歩く。しかし、教会はどこにあるのか分からない。まるで迷路のように入り組んだ狭い路地を歩いていると、闇の商人らしき男に出くわす。彼は音楽祭がどこでやるのか知っていると言って、2人をある場所へと案内する。その時、男は何故か木彫り用のナイフを手に持っている。一体二人はどうなってしまうのか‥。このハッタリを効かせた演出に、すこぶる興奮させられた。

 そして、その後に訪れる「音楽」と「セックス」を対置させたシチュエーション。これも実に刺激的だった。このシチュエーションから、「音楽」=「森井」=「変わらぬ者」、「セックス」=「杏子」=「変わる者」という図式がはっきりと見て取れる。森井は学生時代からずっと革命を追い求める”少年”であり、杏子は人の妻として生きる”女”であり、2人は互いに相容れない関係である‥ということが残酷に浮かび上がってくるシチュエーションである。革命という幻想に未だに取りつかれて、過去から抜け出せずにいる森井が憐れに見えた。

 しかして、この不倫旅行で一度は郷愁じみた愛欲に溺れた二人だが、最終的には再び別れてしまう。当然である。杏子には杏子の暮らしが待っている。いつまでたっても森井の革命という”お遊び”には付き合ってられない。学生時代とは正反対に、今度は杏子の方から去って行く‥という所が皮肉的である。

 中平の演出は随所にユニークさを発揮している。
 まず冒頭、パリのカフェのクローズアップの対比は中々刺激的だった。
 そして、森井の部屋に招かれた杏子がシャワーを浴びるシーン。セリフは発していても口は動かないという、完全にリアリティを無視した演出。何となく彼女の心の声が混じっているような感じがして面白かった。
 続くバカンス先での森井と杏子のベッドシーン。ここもセリフと映像をわざと”合わせない”演出で責めている。二人の言葉が必ずしも真意ではないということを暗に示すべく、敢えて作為的にしているのだろう。尚、この時点では、二人の心はまだズレたままである。そのことも、この特殊な演出からよく分かる。
 このように見る側に異化効果を与えるようなユニークな演出は、この映画の中では頻繁に登場してくる。そこが中平康の映画の一つの特徴であり面白い所でもある。

 但し、個人的には、謎の老婆のカットだけは全く意味不明だった。二人がベッドで抱き合っている部屋を老婆が窓越しに見つめているのだが、そのカットに一体何の意味があったのか?そして老婆は一体何者だったのだろうか?何かを暗喩しているとしても、自分には皆目見当がつかなかった。
[ 2015/08/27 01:40 ] ジャンルロマンス | TB(0) | CM(0)

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