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黒木太郎の愛と冒険

人情に厚いオジサンの物語。心の中のヒーローよ。永遠なれ。
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「黒木太郎の愛と冒険」(1977日)星3
ジャンル人間ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ)
 ガンは親友の勉たちと一緒に8ミリ映画を撮っている定時制学校に通う高校生である。勉にはスタントマンをしている黒木太郎、通称モンさんという伯父さんがいた。モンの妻は、かつて女優をしていた人で、ガンはいつか彼女の女優復活映画を製作したいと夢見ていた。そんなある日、ガンの下宿先に出入りするゴメさんが亡くなる。ガンはモンと一緒にゴメさんの遺骨を持って彼の妹の家へ赴いた。妹は夫と床屋を営む聾唖者だった。彼らは二階に下宿する女教師のことで困っていた。その話を聞いたモンは一計を案じる。

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(レビュー)
 純朴な青年と親友の伯父さんの交流を人情味あふれるタッチで描いたヒューマン・ドラマ。同名小説を森崎東が監督・脚本を兼ねて製作した作品である。

 随分と仰々しいタイトルだが、黒木太郎、通称”モンさん”は決してスーパーヒーローではない。どこにでもいる小市民で、むしろ誰よりも俗っぽく誰よりも勝手気ままに生きている人間である。一昔前にはどこにでもいたであろう、近所のおじさんのような佇まいに親近感がわく。そして、彼は人一倍人情に熱く、そこにキャラクターとしての愛着感が湧く。この映画は、ガンを狂言回しにしながら語る、”モンさん”という中年男のドラマとなっている。

 劇中にはモンさんやガンを中心にしたエピソードが幾つか登場してくるが、最も印象に残ったのは、モンが心を閉ざした女性教師のために一肌脱ぐエピソードだった。女性教師は過去にレイプされたことがあり、そのショックから人間嫌いになり、現在は大量の猫と一緒にまるで世捨て人のような暮らしを送っている。モンはこの話を聞いて、いてもたってもいられず、夜中にこっそりと彼女の部屋に忍び込んで寝込みを襲おうとする。過去の悪夢を再現することで、心の中のトラウマを払拭しようとするのである。普通は逆効果ではないか‥と思うのだが、このショック療法は意外や意外、上手くいく。ただし、それはモンが想定していたのとは全く別の筋書きで、であるが‥。
 この時のモンと女性教師のやり取りが一々ユーモラスで面白かった。バカが付くほど情に厚いモンの性格もよく表れていて、微笑ましく見れた。また、翌朝になって見せる女性教師の晴れ晴れとした表情にも心癒された。

 ガンと元陸軍歩兵隊員だった父親の話は、中々ハードなエピソードだった。ここには反戦メッセージが織り込まれおり、父の末路には改めて戦争の無情が実感される。
 尚、このエピソードの中には、戦時下における兵士たちの極限的状況を表した逸話が登場してくる。彼らは遺骨の代わりに死んだ仲間の指を切り取って持ち帰ったという。しかし、食べるものが無くて皆、飢えていた。余りにも腹を空かせたので、やむに已まれずその指すら焼いて食べてしまったという。こういう話が実際にあったことを知り衝撃的だった。

 ラストにかけて描かれる、勉の従妹・和美のエピソードも印象に残った。ヤクザの元でトルコ嬢として働く和美を取り戻そうと、例によって世話好きなモンが買って出るのだが、これが彼自身を”ある危機”に陥れてしまう。映画はこの”危機”を実に素っ気なく描いているが、これがまた良いと思う。モンはスタントマンという職業柄、決して世間的に表立つ男ではない。したがって、この”素っ気なさ”が実にしっくりくるのだ。

 逆に、この映画は終盤から、狂言回しだったガンの姿に熱い視線を送るようになる。モンの素っ気なさとは反対に、こちらはかなりドラマチックに盛り上げられている。それまでのトーンからすると少々違和感を持ったが、”夢に挫折”した青年の思いはひしひしと伝わってきた。素晴らしいクライマックスだと思った。

 尚、このクライマックスには、監督・森崎東の兄・森崎湊の戦時体験記を元にした「遺書」という本が出てくる。ガンは父から託されたこの本を読みながら、自らも父の影を追いかけていくようになる。そこには戦時下における神風特攻の精神がちらつく。
 後で知ったが、森崎湊は終戦直後に割腹自殺をしている。そのことが、このクライマックスのガンの怒りに投影されていたのかもしれない。

 キャストでは、モンを演じた田中邦衛の存在感が際立っているが、そのほかにも森崎東作品の常連を含め、多彩な個性派俳優が登場して画面を賑々しく盛り立てている。中でも財津一郎は頭一つ抜きん出た感じがした。彼にしか出せない独特のノリが随所でユーモアを効かせていた。
 また、ガンを演じた青年の熱演も忘れがたい。彼は今作以外にフィルモグラフィーが見当たらないので、もしかしたらプロの俳優ではないのかもしれない。実際、演技自体は素人レベルで決して上手いというわけではない。しかし、独特の低音ボイスが魅力的で、ガンという青年を見事に印象付けていた。
[ 2015/08/30 00:46 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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