既視感はあるが丁寧に作られていて好感が持てる。
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 (2013-04-17)
売り上げランキング: 14,805
「リアル・スティール」(2013米)
ジャンルSF・ジャンルアクション・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 西暦2020年。かつてボクサーとして活躍したチャーリーは、今はロボット同士が戦う格闘技”リアル・スティール”の操縦者として各地を転々としていた。そんなある日、別れた妻が急死し、彼の前に11歳の息子マックスが現われる。彼を重荷に感じたチャーリーは、養子に欲しいという義姉夫婦に金で親権を譲った。ただ、夫婦が海外旅行に行くので、その間だけマックスを預かることが条件だった。マックスはリアル・スティールの大ファンでチャーリーの仕事に興味津々。親権譲渡で得た金で購入したロボットで、2人は早速裏街道で行われている闇格闘場に出場するのだが‥。
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(レビュー) ロボット格闘技を通して長年疎遠だった父子が深い絆で結ばれていくSFアクション映画。
只のアクション映画かと思っていたら、父子の情愛も丁寧に描き込まれていて中々の好編に仕上がっている。エンタテインメントとして面白く見れるし、ファミリー・ムービーとしては実に周到に作られていて、親子揃ってみる分には、何の不満もない出来である。
また、テーマも普遍的で崇高だと思った。要は、金より心、人間関係の大切さをこの映画は説いている。即物、拝金主義者を悪役に仕立てて、それにチャーリーたちが立ち向かっていくという図式は、この手の勧善懲悪ものではお約束の展開であるが、それがきちんと踏襲されている。
加えて、チャーリーは劇中で3体のロボットを使っているが、そのうちの2体は金で買ったロボット。1体はマックスが廃棄場で拾った旧式のロボット・ATOMである。ATOMは最後にゼウスというロボットと戦うことになるが、このゼウスは成金でのし上がった権力者が金に糸目を付けずに作り上げた最新鋭のロボットである。圧倒的不利な状況の中、ATOMとチャーリーたちはゼウスに善戦する。悪徳資本家にハートでぶつかって行くのだ。
ラストでチャーリーが義姉夫婦からマックスの親権譲渡の残金を受け取らなかったのも然り。大切なのは金じゃなくて心だ‥という事を示している。
このように、世の中には金や物よりも大切なものがある‥という事をこの映画は教えてくれている。この道徳的なテーマが一貫されていることで、今作は親子揃って安心して見れる作品となっている。
しかも、この映画はロボット同士が戦うという点で、流血するような残虐シーンも出てこない。その点でも見る側に優しく作られている。
ここまで丁寧にかっちりと作られていると、ただ、ただ感心してしまうほかない。さすがはディズニー傘下のタッチストーン配給の映画である。
‥と、ここまで褒めておいて何だが、確かにこの内容なら子供であれば十分楽しめるだろう。しかし、大人である自分が見た場合、正直な所、物足りなさを感じた。話の展開にしろ、キャラクター造形にしろ、紋切り的で食い足りない。
そもそも、ボクサー崩れのチャーリーがロボットの操縦者として再生していくという物語は、完全に「ロッキー」(1976米)をなぞったストーリーである。しかも、本人がトレーニングして戦うわけでなく、あくまでロボットに戦わせるという点で、ドラマ的なカタルシスが薄い。
また、父子の愛情再生のドラマは、同じボクシング映画としては「チャンプ」(1979米)という前例がある。もちろんファミリー映画なので、あそこまでシリアスな結末は迎えないが、それに近いようなシーンは出てくる。チャーリーが冒頭に登場する借金取りに報復を受けるシーンがそれである。ボロボロになったチャーリーにマックスが駆け寄る場面は、明らかに「チャンプ」のラストシーンを意識しているとしか思えない。このあたりはもう少し変化を付けて欲しかった。
それと、これは完全に個人的な好みの問題なのだが、マックスのキャラクターが余り好きになれなかった。生意気で優等生過ぎて、子供らしい愛嬌が感じられない。例えば、ゼウスに挑戦状を叩きつけるシーンの自己顕示欲の強さといったらない。この言動だけでも、自分はマックスの心情から一気に引いてしまった。しかも、その後にゼウスと決戦に向かう途中で、彼はチャーリーに向って「勝てるかな?」と自信なさげに言う。ここはハッキリと「勝とう!」と言うべきだったのではないだろうか?マックスの言動に統一感が無いので益々感情移入できなくなってしまった。
また、先述した借金取りだが、彼の出番は冒頭だけでよかったのではないだろうか?いたずらに悪人を増やしているだけで余りドラマの盛り上がりに寄与していない。
演出は今時のスタイリッシュな映像で上手くまとめられていると思った。ロボットは全てCGで描かれており、人間との絡みも自然だった。
一方、人間ドラマのパートで言えば、もう少しじっくりと描出して欲しい場面があった。例えば、女性トレーナーのチャーリーに対する淡い恋慕などは、もっと深く突っ込んだ方が味が出たかもしれない。
尚、今作は所々に日本オマージュが登場してくる。チャーリーが買った2体目のロボットは、ボディに漢字の刺青が施されている。操縦の命令も日本語に対応している。また、マックスが拾ったロボットの名前がATOMというのも「鉄腕アトム」のオマージュだろう。日本人としてはこういう仕掛けは楽しく見れた。