警察24時的なドキュメンタリー・タッチのポリス・アクション作品。
松竹 (2014-02-08)
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「エンド・オブ・ウォッチ」(2012米)
ジャンルアクション
(あらすじ) ロサンジェルスの重犯罪多発地区サウス・セントラル。白人警官のブライアンとメキシ コ系警官のミゲルはコンビを組んで巡回パトロールに当たっていた。ブライアンは大学入学を目指し入試課題である映像制作のために日々の業務をビデオに収めていた。ある日、カメラ片手にパトロールをしていた時に彼らは麻薬密売をしているヒスパニック系ギャングのトラブルに巻き込まれてしまう。
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(レビュー) 犯罪多発地帯で働く警官たちの活躍を臨場感あふれるタッチで描いたポリス・アクション作品。
今作は大変ユニークなスタイルで撮られた映画である。冒頭、いきなりブライアンたちが乗ったパトカーの車載カメラの映像から始まる。その後も、制服の胸に取りつけた小型カメラの映像、ブライアンが持ったハンディカメラの映像、様々な画面で物語が紡がれていく。これらは全てブライアンが昇進試験の課題のために仕掛けたカメラである。
以前見た映画でブライアン・デ・パルマ監督の
「リダクテッド 真実の価値」(2007米カナダ)という作品があった。あれも様々な映像によってイラク戦争の実態を赤裸々に綴った戦争映画だった。本作のスタイルもそれによく似ている。
もっとも、ドキュメンタリー・タッチという点では共通しているが、こちらは映画独自のモンタージュを駆使した映像編集が見られるので、徹頭徹尾ドキュメタリーのように見せた「リダクテッド 真実の価値」とは少し異なる作品である。ブライアンが撮影する映像と、映画独自の映像が混在し、非常に”劇映画的”な構成になっている。
また、犯人逮捕に急行する時には、さながらFPSゲームのような視点に切り替わり、現場の恐怖を観客に味あわせようという演出が施されている。これも”劇映画的”な構成だ。POV映画のような臨場感、迫力が感じられた。
こうしたPOVスタイルはホラー映画では結構使われるが、アクション映画で使われるのは中々新鮮ではないかと思う。考えてみれば、ホラーもアクションも基本的な演出スタイルはサスペンス・タッチである。スリリングさをよりダイレクトに観客に訴えようとするなら、POV形式は理に適っていると言える。今後、アクション映画の中でも、こうしたPOV演出は増えていくかもしれない。
但し、場面によっては映像が揺れすぎて何が写っているのか分からない‥というような個所がある。画面酔いしやすい人にとっては余り向かない作品かもしれない。
ストーリーも中々面白く追いかけることが出来た。単に警官たちの犯罪取り締まりをドキュメンタリー風に追いかけるだけでなく、ブライアンとミゲルの友情に焦点を絞ったドラマが丁寧に綴られている。
2人は人種も性格もまったく異なるが、一緒に犯罪を取り締まるうちに信頼関係で結ばれていくようになる。大げさな言い方になってしまうが、自分はこの「エンド・オブ・ウォッチ」は、無法地帯で戦う”戦争映画”だと思っている。死線を共にするブラインとミゲルは、さながら戦友のようで、そこで育まれる連帯感、信頼感には自然と見入ってしまった。
そして、迎える衝撃のクライマックス。二人の友情は”ある事件”によって感動的に昇華される。その後に続く”事件当日の朝”のフラッシュバックも実にドラマチックで、この”時制の演出”には、まんまとしてやられてしまった。男泣き必至な結末となっている。
尚、中盤で起こる警官襲撃事件も強く印象に残った。新人女性警官が頭の狂った大男に暴行されるのだが、彼女は救急車で運ばれながらその場で上司に辞職を申し出る。いきなりこんな経験をしてしまったら誰だって逃げ出してしまいたくなるだろう。このシーンは心底恐ろしかった。
このエピソードに限らず、この地域で働く警官は皆、本当に身の危険を感じながら職務を遂行している。はっきり言って、自分ならこんな場所でこんな仕事はしたくないものである。もっと安全な職業に就くか、別の場所に引っ越したくなる。
ブライアンが捉えたカメラはこうした重犯罪以外に、火事や児童虐待、人身売買といった現場も捉えていく。この中では、火事のエピソードは割かし良いエピソードで、唯一ホッとできる場面だった。こういう美談的エピソードは誰しもが好感を持てるのではないだろうか。しかし、このエピソード以外は、いずれも暗澹たる思いにさせられる物ばかりで、アクション映画だからと言っても本作は決して見終わった後にスカッとするような映画ではない。
キャストは、ブライアンを演じたJ・ギレンホール、ミゲルを演じたマイケル・ペーニャ、夫々好演していると思った。特に、ペーニャは役柄的にも好印象で、まさに役得という感じがした。
共同製作・監督・脚本はD・エアー。ドキュメタリー・タッチで見る者をグイグイと引き込む演出に非凡なセンスが感じられる。今回はアイディア優先の映像作品となっているが、今後はどういった作品を撮っていくのか、気になる所である。尚、今作の後にはB・ピットが主演した戦争映画「フューリー」(2014米)の監督に抜擢された。この事から考えても、彼は現在のハリウッドで最も注目すべき監督の一人と言っていいかもしれない。