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野火

過酷な戦場を追体験する衝撃のサバイバル映画。
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「野火」(2014日)star4.gif
ジャンル戦争
(あらすじ)
 日本軍の敗北が濃厚となった太平洋レイテ島。結核を患った田村一等兵は野戦病院行きを命じられるが、病院は負傷兵で溢れかえっていてすぐに追い出されてしまった。行き場を無くした田村は、激しい空腹に苦しみながら果てしない原野を彷徨い歩く。そして、ある村にたどり着き、食糧を奪うために逃げ遅れた民間人を殺めてしまう。

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(レビュー)
 大岡昇平の同名原作を鬼才・塚本晋也が製作・監督・脚本・撮影・編集・主演を兼ねて作り上げた労作。塚本監督は長年この企画を温めていたが、中々実現に至らず、私財を投じてようやく完成にこぎつけたそうである。そのせいもあって、今回の作品は彼の意気込みが伝わってくるような鬼気迫る内容となっている。

 尚、この原作は1959年に市川崑監督が一度映画化している。自分はそちらを先に見ていたので、ストーリー自体は予め知った上での鑑賞だった。

 改めて両作品を見比べてみると異なる箇所が幾つかあり、2人の作家性の違いみたいなものが見えてきて面白い。

 まず、前作の田村は非常に朴訥とした主人公で、所々にオフビートなユーモアが配されていたが、今回の映画にはそうした、とぼけた味わいは無い。戦場の極限をとことん突き詰めた所に塚本監督のこだわりが感じられた。
 例えば、後半の銃撃シーンにおける残酷描写は前作には見られなかった刺激的光景である。いかにも塚本監督らしい肉体破壊描写で、確かに見世物的趣向も感じられるのだが、改めて戦争の恐ろしさをダイレクトに突きつけてくる。戦争に英雄などいない。あるのは死だけだ‥というリアリズムが感じられた。

 また、映画の締めくくり方も大きく異なる。前作は戦場で終わっていたが、今回はその後にエピローグ的なシーンが追加されている。まるで戦火よ再び‥という不安を残しながら映画は終わるのだ。ここにも監督の強い思いが感じられた。
 戦後70年経った日本。かつての戦争を語る人間がいなくなりつつある現在。それを語り継ぐべきは「自分」という使命感から、このエンディングが生まれたのではないだろうか。戦争の記憶を消してはいけないという思い。これからの日本はどこへ向かおうとしているのか、という不安。そうした気持ちが、映画独自のエンディングを作り出したのではないかと想像する。本作を見て観客に考えて欲しいという狙いが感じられた。

 逆に、市川崑版にあって今作には無いシーンがある。前作で最も衝撃的だった精神を崩壊させてしまった老兵が今回の映画には登場してこない。この役回りは、田村が放浪の中で出会う伍長に取って代わられている。
 今回の映画は塚本監督が率いる製作スタジオ、海獣シアターの自主製作映画である。資金繰りには相当難儀したようで、おそらくキャストも必要最小限に抑えたのだろう。役者を揃えることが出来なかったのかもしれない。ただ、この改変によってストーリーが大幅に変わることはないし、逆にこれによって、あの頼りがいのある伍長までもが狂気に呑み込まれてしまった‥という戦場の非情さが克明に記され、この改変はむしろ成功しているように思った。

 演出は手持ちカメラを基調としたドキュメタリータッチが貫かれている。このドライヴ感は塚本監督のデビュー作「鉄男 TETSUO」(1989日)から変わらぬスタイルであるが、それによって戦争映画ならではの重厚さが半減してしまったのは残念だった。このあたりは市川崑版と見比べてみると一目瞭然である。明らかにあちらの方がスケール感がある。
 また、デジタルカメラで撮られているので、フィルムと比べると、どうしても画面がチープになってしまう。冒頭のシーンからして、それはハッキリと感じられた。しかし、それを意識したのも最初だけで、凄惨で過酷な映像が次々と写しさ出されると、次第にこの違和感も払拭されていった。結果、見終わった後には余り安っぽさを感じなかった。

 キャストでは、田村を自ら演じた塚本晋也の熱演を評価したい。今作にかける意気込みがヒシヒシと伝わってきた。
 他に、リリー・フランキーも板についていた。非常に憎たらしい役所で、まるで「凶悪」(2013日)の演技を思わせる悪辣振りを披露しているが、今回はその時よりも自然に見れた。それというのも、彼に限らず出演者のほとんどは顔を泥と煤まみれにしているので、一見して誰が誰を演じているのか分かり辛い。これが奏功している。他のメディアで培われたパブリック・イメージが”役”を損なわないで済んでいる。
 また、少年兵士・永松を演じた森優作もラストの演技がインパクトがあった。彼はオーディションで選ばれた新人だそうだが、若干軽い演技が目につくも、市川崑版ではこの役をミッキー・カーティスが演じていたことを考えれば、なるほどと思えてくる。何となく同じ匂いが感じられた。
[ 2015/09/11 01:36 ] ジャンル戦争 | TB(0) | CM(0)

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