W・アンダーソン監督の独特の感性が詰まった愛らしい作品。
Happinet(SB)(D) (2014-11-05)
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「ムーンライズ・キングダム」(2012米)
ジャンルロマンス・ジャンルコメディ
(あらすじ) 1965年、アメリカのニューイングランド沖の小島。ボーイスカウトのサマー・キャンプに参加していた少年サムが突然疾走する。ウォード隊長や地元警官シャープを中心に、早速サムの捜索が始まった。その頃、島の反対側では厳格な両親に育てられた少女スージーも家出をしていた。実は、サムとスージーは1年前から文通をしていて、この日に駆け落ちする約束を交わしていたのだった。大人達の捜査が進む中、2人は逃避行の旅に出る。
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(レビュー) 少年と少女のロマンスをポップな画面とコミカルな描写で綴った愛らしい作品。
共同製作、監督、共同脚本はW・アンダーソン。独特のオフビートなユーモアと、時折見せるシニカルなジョークはこの人ならではの感性で、好き嫌いがはっきりと別れそうだが、ツボに入る人には堪らない物があるだろう。今作も彼の作家性がよく出た作品である。
また、シニカルなジョークも決して嫌味に見えない所が良い。どうしようもない人物がたくさん登場してくるが、彼の眼差しは常に彼らに寄り続けている。人間って弱い生き物だなぁ~と思いつつも、そこはかとなく愛情が感じられるのが見てて心地よい。
卓越した映像センスも相変わらず冴えている。
例えば、オープニングのスージー邸のシーケンス。真正面&シンメトリックなアンダーソン作品特有の画面構図と、モノローグによるスピーディーな画面展開でグイグイと作品世界に引き込まれた。
色彩のセンスも要所で凝った物を見せている。基本的にはパステルを基調とした画面で構成されているが、クライマックスは一転。モノトーンの映像に切り替わり、どこかクラシカルな匂いを感じさせる。また、都会の福祉局は寒色、島の風景は暖色トーンで統一されており、この対比も面白く見れた。全体的に画面のメリハリが上手く効いていて”目で見て楽しめる”作品となっている。
物語自体はこじんまりとした感は否めないが、W・アンダーソン版「小さな恋のメロディ」と思って見れば悪くはない。
子供=純粋、大人=不純という対比でドラマを回していったのは安定感があった。サムは両親から捨てられた孤児。スージーは弁護士をしている両親から束縛されている籠の中の小鳥。境遇は異なるが、2人は愛に飢えた可哀そうな子供たちである。そんな彼らが、親や周囲の大人達に反発しながら愛を成就していく様は素直に面白いと思った。
敢えて言えば、ストーリーの視座が基本的に子供たちにあるので、大人達のドラマが若干ステロタイプになってしまったのが不満である。もう少し視野の広いドラマにしても良かったのではないだろうか。アンダーソン映画の中ではかなり万人受けしそうだが、逆に彼のこれまでの作品を見てきた者としては少し物足りなかった。
尚、子供のロマンスなので直接的な性表現はないが、それを匂わすようなニュアンスはそこかしこに見られる。例えば、サムがスージーの耳にピアスの穴を開けるシーンは、明らかに処女喪失の暗喩であろう。W・アンダーソンはこうした洒落た演出が大変上手い。
キャストは豪華な顔ぶれが揃っている。B・ウィリス、E・ノートン、B・マーレイ、F・マクードマンド、T・スウィントン、そしてW・アンダーソン作品の常連J・シュワルツマン等が癖のあるキャラを演じている。いずれも主役級のキャストなので見応えがあった。
また、主役の少年、少女は今作が映画デビューということである。こちらも微笑ましく見れた。特に、スージー役を演じたカーラ・ヘイワードは、W・アンダーソン作品によく出てくる、少し病んだゴス系少女として造形されている。彼女の存在感は、他の大物俳優たちに全然負けてないない。彼女の今後の活躍に期待したい。