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私は貝になりたい

メッセージも普遍的だがフランキー堺の好演も本作を名作にしている。
私は貝になりたい <1959年度作品> [DVD]
東宝 (2008-10-24)
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「私は貝になりたい」(1959日)星5
ジャンル人間ドラマ・ジャンル戦争
(あらすじ)
 高知で理髪店を営む豊松の元に召集令状が届く。妻と生まれたばかりの赤ん坊を残して彼は戦地へ赴いた。そこで彼は上官の命令で二人の米兵を処刑した。終戦後、元の平和な生活に戻る豊松。そこにMPがやってきて彼は逮捕されてしまう。

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(レビュー)
 戦争の理不尽さを強烈にアジテーションした反戦映画。元陸軍中尉だった加藤哲太郎の遺言を元に、橋本忍が脚本・監督を務めて製作した作品である。尚、前年に同じフランキー堺主演でテレビドラマ化もされている。今回はその反響を呼んでの映画化である。

 改めて思うことだが、ここで描かれる悲劇には胸を痛めるしかない‥。何度も映像化されている名作なので、結末を知っている人も多いと思うが、それでも豊松が辿る運命は不憫極まりなかった。彼の最後の「私は貝になりたい」というセリフが胸に突き刺さってくる。そして、そのセリフを受けて描かれるラストシーンも印象的だった。

 豊松は実直で、お人良しで、臆病な、どこにでもいる普通の男である。優しい妻と赤ん坊に恵まれ、小さいながらも地元の人々に愛される理髪店を営業している。そんなある日、彼の元に召集令状が届く。これによって彼の人生は狂わされてしまう。戦地へ赴いた彼は、上官の命令で仕方なく米兵を処刑する。彼は帰国後、その罪を問われることになる。そして、絞首刑の判決が下される‥。

 ドラマはこの後に、元上官との交流や、判決の撤回に追いすがる姿などが丁寧に描かれている。少しユーモアも交えながら描いているのが特徴で、隠滅になりがちなドラマもこれによって見やすいものとなっている。しかし、そうは言っても、そのユーモアもどこか”終末の優美”に見えてくるのが切なかった。結末が分かっているだけに余計に豊松の笑顔が物悲しく映る。

 中でも、元上官との和解のドラマにはしみじみとさせられた。元をただせば彼の命令で豊松は今回の裁判にかけられたようなものである。だから、同じ刑務所に収監されても、最初は彼のことを憎んで口も利かないで無視し続ける。しかし、この元上官も一人の人間である。その素顔に接し、罪を償う姿を前にした時、豊松は全てを許そうとする。彼もまた戦争という狂気に取りつかれた憐れな男であり、自分と同じ罪を背負う男であると‥。こうして二人はわだかまりを捨てて、一人の人間として互いを敬うようになる。暗いドラマに少しだけ明かりが灯ったような気がして、何だかホッとさせられた。豊松が元上官の髪を散髪する姿が印象的である。

 橋本忍の演出はオーソドックスにまとめられている。彼にとっては今回が初演出ということだが中々堅実だった。少なくとも怪作「幻の湖」(1982日)よりは随分と”まとも”である。ロングテイクで俳優の演技を漏れなく画面に収めながら、感情の機微を上手く掬い上げている。

 特に、刻一刻と絞首刑の瞬間が迫り来る中、死に怯えながらワインを飲むクダリで豊松の表情を丁寧に捉えている。1杯目では死に行く実感が湧かず放心状態のまま飲み干す。2杯目になると徐々に自分の置かれている状況を飲み込み、3杯目には恐怖にむせび泣く。豊松の恐怖と憤りを1カットに詰め込んだ演出が素晴らしかった。

 一方、豊松を演じたフランキー堺の好演も見事である。平時の飄々とした演技と、収監後の神妙な面持ちの使い分けが抜群に上手かった。また、彼の平民的な造形が良い。この主人公をどこか身近に感じてしまう。これは彼が主演した「世界大戦争」(1961日)についても同様のことが言える。平民をやらせると、これほどハマる俳優もいない。つまるところ、彼の存在が本作のリアリティを支えていると言っても過言ではないような気がする。
[ 2015/10/20 00:40 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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