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狩人の夜

カリスマ・ヒールが登場するカルト作品。
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「狩人の夜」(1955米)star4.gif
ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 偽伝道師をしながら各地を転々としていたハリーには裏の顔があった。実は彼は連続殺人鬼だった。そんな彼も窃盗罪で捕まり刑務所に収監されてしまう。そこで彼は1人の死刑囚と出会った。彼から、過去に強盗で手に入れた1万ドルを息子たちに託したという話を聞く。その後、出所したハリーは早速、彼の家族が住む町へと向かった。そして、言葉巧みに未亡人に取り入り一家に潜り込んでしまう。長男のジョンはそんなハリーを怪しむのだが‥。

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(レビュー)
 偽伝道師が強盗の金の在りかを巡って子供たちと対決していくサスペンス映画。

 ‥とは言っても、今作は通り一辺倒なサスペンス映画とは一線を画す特異なメッセージが込められた作品となっている。主人公が偽伝道師という点、子供が歌う讃美歌のような曲等、意味深に宗教色がそこかしこに含まれているのだ。

 また、ハリーは右手の指に「LOVE」、左手の指に「HATE」という文字の刺青をしている。これは「天国」と「地獄」を表しており、行く先々でこれを人々に見せながら説法をして回っている。更には、後半から登場する信心深い老女レイチェルは、ハリーからジョンたちを守る守護天使のように存在している。
 本作はサスペンスを売りにしたジャンル映画ではあるが、こうしたキャラクター、設定などに込められた教示的なメッセージによって、一定の普遍性を持った作品となっている。

 尚、この映画は一部でカルト的な人気があり、ハリーの手の刺青は度々他の作品でもパロディ化されている。例えば、「ブルース・ブラザース」(1980米)では、J・ベルーシーとD・エイクロイドの指に「JAKE」と「ELWOOD」という文字が、「処刑人」(1999米)のマクナマス兄弟の手には「VERITAS(真理)」と「AEQUITAS(正義)」という刺青が施されていた。いずれもこの映画のパロディである。

 そんなカルト的人気がある本作、一番の見所と言えばやはり映像ではないかと思う。各所に登場する神秘的で寓意的な画面は作品全体を異様な雰囲気で包み込んでいる。

 例えば、ジョンと妹が小舟に乗って逃げるシーンは、自然の風景の美しさも相まって非常に印象に残った。動物や星々がどこかこの世の物とは思えぬ幻想的世界を作り出し、不穏なサスペンス劇に一定の安らぎと味わいをもたらしている。
 反対に、ジョンたちを追って馬に乗って追いかけるハリーの佇まいは、実に怪しい魅力を放っていて、夜月に照らされたシルエットの幻想性と言ったらない。それを目撃したジョンが「あいつは眠らないのか」と言うが、まさに寝食不要な人間離れした存在、更に言えば悪魔の化身のようにも見えてくる。
 また、川底に沈むジョンの母の死体も特筆すべき美しさがあった。

 こうした幻想的な映像の他に、ドイツ表現主義的な怪しい映像も登場してくる。ジョンの母がハリーに殺される場面における奇妙な美術背景は、まるで教会の礼拝堂を思わせるようなデザインとなっている。コントラストを強調した照明効果がこのシュールな空間を更に幻想的に見せており、歪な構図、モノクロの特色を活かした濃密な陰影トーンはいかにもドイツ表現主義的である。こうした映像演出は要所でサスペンスを引き締め、只ならぬ緊張感と不安感を作りだしている。

 一方、ストーリーについては、サスペンスとして見た場合、若干弱い気がした。展開が少々間延びしているし、偽宣教師のハリーに皆が心酔していく所に説得力が余り感じられなかった。特に、ジョンの母親に至っては、亡き夫を忘れてたちまちハリーに色目を使う始末で、この安易なキャラクター・タッチには閉口してしまった。また、クライマックスの追跡劇も安穏としていて気が抜けてしまう。正直な所、ストーリーはいささか凡庸という感じがした。

 監督は名優C・ロートン。本作は彼が唯一残した監督作品である。映像演出に関しては、これまで述べてきたように実に卓越した美的センスを持っている。もしこのまま監督業を続けていたら‥と思うと惜しまれる。もっと彼の監督作を見てみたかった。

 キャストの好演も見逃せない。何と言っても、ハリーを演じたR・ミッチャムの怪演が印象に残った。終始半開きの目で喜怒哀楽といった感情を一切見せない所に得体の知れない”怖さ”を覚えた。ある意味ではホラー映画的な造形と言っていいと思うが、これが絶品だった。

 また、彼は常にポケットの中に飛び出しナイフを隠し持っていて、”ある場面”になるとそれで生地を「ブスッ!」と刺す。これも実に恐ろしかった。冒頭の映画館のシーンと後半の繁華街のシーンでこの演出が反復されており、ハリーの隠し持った狂気を強烈に印象付けている。

 そして、彼のこの行為にも関係しているのだが、本作には一部で女性蔑視と思えるような描写が散見される。
 例えば、先述したジョンの母親が良い例である。彼女は我が子そっちのけでハリーに心を奪われてしまう。また、レイチェルの家に住む年頃の少女の浮ついた言動も、どうかすると”ビッチ”的である。ハリーは良いように彼女たちの心を掌握し、強盗の金の在りかを探ろうとする。確かにこれでは、まるで女たちは馬鹿で尻軽なビッチばかりだ‥と言わんばかりである。

 ただ、後半に登場するキーパーソン、レイチェルだけは唯一ハリーに屈しなかった勇敢で聡明な女性である。その彼女が本作のオープニングとエンディングのナレーションを務めていることを考えれば、この考えが早計であることは明白である。製作サイドは、あくまで一つの教訓として、こうした女性像を描いて見せているのだと思う。
[ 2015/11/24 13:52 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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