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もらとりあむタマ子

このぬるま湯にいつまでも浸かっていたい…。
もらとりあむタマ子 [Blu-ray]
キングレコード (2014-06-25)
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「もらとりあむタマ子」(2013日)star4.gif
ジャンル青春ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ)
 東京の大学を卒業したものの就職もせず、父・善次が一人で暮らす甲府の実家へ戻ってきたタマ子。家業のスポーツ用品店を手伝うでもなく、ただ漫然と暇を持て余していたある日。雑誌のオーディションに目が留まる。タマ子は密かにそれに応募するのだが‥。

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(レビュー)
 モラトリアムな少女の日常を綴った青春映画。

 「苦役列車」(2012日)の山下敦弘監督と前田敦子が再びタッグを組んで製作した80分弱の小品である。

 不景気による就職難の昨今、このモラトリアムな青春劇は非常に同時代的な物として映った。その一方で、父娘の関係変遷のドラマにはしみじみとした味わいがあり、一定の普遍性も感じられた。小品と言えど中々侮れない作品である。

 ちなみに、終盤でタマ子が父に向って言う「合格」には声を出して笑ってしまった。ある意味で、このセリフは凄い”オチ”とも言える。何を持って「合格」なのかは、ぜひ映画を見て確かめてもらいたい。

 今作はセリフが極端に少なく、父娘の会話も余り無い。なのに2人の愛情が素直にこちら側に伝わってくるのは、少ないセリフの中にも互いを思いやる気持ちがさりげなく投影されているからであろう。また、リアルなセリフの数々が絶妙で、そういう意味では脚本がかなり秀逸だと思った。

 唯一、後半のアクセサリー教室の場面で珍しくタマ子が喋りまくるシーンがある。ここだけはセリフが非常に多い。それだけに印象に残るのだが、同時にここからタマ子の父親観が伺えて面白い。当人とは面と向かって言えないことを赤の他人に対しては言える‥というのはよくあることで、タマ子の父に対する愛情がよく伝わってきた。

 本作にはタマ子と父の関係の他にもう一つの人間関係が登場してくる。それはタマ子と近所に住む中学生男子との関係である。男子は完全にタマ子の舎弟扱いで、色々とパシリをやらされる。しかし、何だかんだと言って彼女のために尽力するのだから、彼も相当人が良い。ガールフレンドにタマ子を指して「友達いないんだ」と言うシーンには、同情心とはまた違った、そこはかとない優しさが感じられた。この関係も微笑ましく見ることが出来た。

 このようにタマ子は周囲から温かく包み込まれながら、ひたすら自堕落な生活を送っている。確かにこれはタイトルが示すように”モラトリアム”な暮らしと言えよう。そして、そんな自堕落な生活を見た観客の多くは、彼女に憧れを抱いてしまうのではないだろうか…。

 忙しい日々から解放されたい。責任や重圧から逃れたい。あくせく働く現代人にとって、働きもせずダラダラとマンガを読んだりテレビを見たりしながら過ごすタマ子のような暮らしは正に天国のようである。
 そう考えると、ここで描かれる彼女のライフスタイルは、現代の仕事人間に対するアンチテーゼとも捉えられる。そう意味では、本作にはある種の風刺も見て取れる。

 脚本は向井康介。彼は山下作品の常連ライターであり、2人は過去に「ばかのハコ船」(2003日)というインディペンデント映画を撮っている。この映画は今作のタマ子同様、ニートな主人公が明日の見えない閉塞的な暮らしの中でもがき苦しむというドラマだった。そういう意味では、本作との共通点が色々と見つかる。
 また、同じコンビで製作された「松ヶ根乱射事件」(2006日)という作品がある。これも主人公の双子の兄弟のうち、片方がニートの引きこもりという設定だった。
 このように山下&向井コンビは、これまで度々ダメ人間を主人公にした作品を撮っている。おそらくだが、二人の中でこのモチーフはずっと頭の中にあり、今回はそれをアイドル女優・前田敦子で撮ってみよう‥という計画があったのではないかと思う。また、これまでの主人公は男だったが、今回は女性を主人公に据えてみようという戦略もあったのかもしれない。

 そして、その期待に応えた前田敦子の存在を語らずして本作は語れない。彼女のナチュラルな演技はオフビートな山下節との相性も良く、それは冒頭の食事シーンからしてよく分かる。この時の女子らしからぬ雑然とした食べっぷりから、前田は完全にタマ子というキャラを確立させてしまっている。しかも、一番最初のセリフが、テレビのニュース番組を見て吐く「ダメだ、日本」というセリフである。画面を見ながら「ダメなのはお前だ」と思わず突っ込みを入れてしまったが、その後に父親が全く同じセリフを言ったので笑ってしまった。
 更には、理髪店で思うような髪型にならなかった時に見せる微妙な表情。これも絶品だった。失敗したなぁ~という心の声が聞こえてきそうである。
 あるいは、地元の旧友が駅のホームで泣いているのを偶然見かけるシーン。ここでの前田の抑制された演技も素晴らしかった。おそらく山下監督の演出も効いているのだと思うが、何とも言えぬ寂寥感がこみ上げきた。それは離れていく旧友に対する寂寥ではなく、自分も今のぬるま湯のような暮らしから離れる時がくるのだろうか‥という不安から来る寂寥である。ここも非常に良いシーンだった。

 尚、本作は前田敦子とアクセサリーの先生役の富田靖子を除いては、それほど有名な俳優は出てこない。したがって、キャストに対する先入観がないまま物語を追いかけることが出来た。本作は決してメジャー大作ではないが、こういうタイプの映画というのも最近では珍しいのではないだろうか?

 今回は父親役の俳優が良い意味で期待を超える演技を見せていた。あとで調べて分かったが、彼はこれまでにも山下作品には度々出演していたようである。失礼ながらこれまでの印象は全くなかった。それが今回は前田敦子との共演という事で準主役である。とつとつとした話し方に、いかにも不器用な性格が表れていて良い味を出していた。
[ 2015/12/07 02:00 ] ジャンル青春ドラマ | TB(0) | CM(0)

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