少女の成長をファンタジックに綴ったジブリアニメ。
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 (2015-03-18)
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「思い出のマーニー」(2014日)
ジャンルアニメ・ジャンル青春ドラマ・ジャンルファンタジー
(あらすじ) 北海道の札幌に暮らす中学1年生の杏奈。辛い生い立ちから心を閉ざし、孤独な日々を送っていたある日、持病の喘息が悪化し、転地療養のために海辺の村でひと夏を過ごすことになった。そこで杏奈は入江に建つ誰も住んでいない古い屋敷を見つける。安奈は何故かそれに惹かれた。そして、その屋敷は杏奈の夢にも現われるようになり、そこには金髪の少女の姿があった。ある晩、その屋敷へ行くと夢で見た金髪の少女が現われる。安奈はその少女マーニーと友情を育んでいくのだが…。
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(レビュー) 心を閉ざした少女の成長をファンタジックに描いたジブリ製作のアニメーション。
監督は
「借りぐらしのアリエッティ」(2010日)で長編デビューを飾った米林宏昌 。
彼はこれまでのジブリ・アニメの作画陣を支えてきた功労者である。そういう意味では、宮崎駿の後継者的な位置づけとして期待されている若手監督の一人と言われている。
実際、映像を見るとこれまでの宮崎作品と比べて何ら遜色ないレベルである。小さなドラマなので決して派手なシーンはないが、日常描写における細かな動きが丁寧に作られている。
例えば、安奈が近所の女の子の悪口を言ったせいで、彼女の母親が怒鳴り込んでくるシーンがある。ここで彼女は帰り際に足を突っ掛けてよろける。何の変哲もない動きだが、観客らしてみれば「ざまぁみろ‥」と少し思ってしまいたくなる。
今作はこうした細かな目くばせが随所に効いており感心させられた。
尚、宮崎駿と高畑勲が事実上引退宣言をしており、現状これが最後のジブリ製作の長編アニメとなっている。今後作られるかどうか分からないが、ブランド自体はまだ存在しているので、いずれは誰かが引き継いで復活させてほしいものである。何しろ世界に通用する日本アニメの数少ないブランドなのであるから、この灯は絶やさないでほしい。
ストーリーも前作「借りぐらしのアリエッティ」よりも、上手くまとまっていると思った。両作品とも原作があり、自分はどちらも未読であるが、少なくとも今回はドラマとして整然とまとまっている。中途半端だった前作よりもテーマが全体に浸透しているため入り込みやすい。また、マーニーの正体を追いかけるミステリーも上手く構成されていた。ラストも予定調和的ではあるが得心した。
もう一つ、美術の素晴らしさも必見である。相変わらず素晴らしい映像世界を堪能させてくれるジブリ作品であるが、今回も世界観の構築に手抜かりがない。
例えば、マーニーが住む屋敷の幻想的な景観は鳥肌物で、この美術設定だけでも本ドラマは成功していると言っても過言ではない。この屋敷は安奈が住む家の近くの入り江にあり、夜になると潮が満ちて外界との往来が出来なくなってしまう。昼と夜の世界を分け隔てる特殊な空間になっていて、ある意味でアンナという少女の成長、つまり子供(こっちの世界)から大人(あっちの世界)への成長を象徴するような舞台装置になっている。
個人的にはR・ポランスキー監督の
「袋小路」(1965英)という映画を思い出した。あれも物語の舞台となるのは、夜になると潮が満ちて陸の孤島となる古城だった。そこに住む孤独な夫婦と強盗殺人犯の関係を、息詰まるタッチと適度なブラック・ユーモアで描いた傑作である。
今作のマーニーも孤独に黄昏る少女である。人間は元来、孤独である‥という真理を提示する舞台として実に印象的である。