現代に生きる吸血鬼の話‥なのだが。
ポニーキャニオン (2013-03-20)
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「ヴァンパイア」(2011日)
ジャンルロマンス・ジャンルサスペンス・ジャンルファンタジー
(あらすじ) 高校教師サイモンはアルツハイマーの母親と暮らしている孤独な青年である。実は彼は吸血鬼だった。彼は自殺サイトで自殺志願者を見つけては、一緒に自殺するふりをして相手の血液を抜き取ってそれを飲んでいた。ある日、サイトのオフ会で集まったメンバーの一人に自分の正体がばれてしまう。彼も吸血鬼には興味津々で、2人は夜の街に繰り出して女性を殺害してしまう。
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(レビュー) 現代に生きる吸血鬼の孤独と苦悩をリリカルに綴ったファンタジー・ロマンス。
製作・監督・脚本・撮影・編集・音楽は岩井俊二。全編カナダでロケが行われた英語劇である。彼は以前、ニューヨークを舞台にしたオムニバス作品
「ニューヨーク、アイラブユー」(2008米仏)の1編も監督しており、日本に留まらず広い視野を持って海外でも意欲的に活動している数少ない国際的な監督の内の一人である。その映像製作にかける意気込みは高く評価したい。
しかしながら、その意欲は認められるものの、今回の作品に関してはとても成功しているように思えなかった。これまでの作品に比べて決してクオリティが低いというわけではない。しかし、ストーリーが退屈してしまう。
岩井特有の映像の透明感はカナダという独特の風土によって影を潜めているが、リリカルさ、浮遊感は健在で”らしさ”を見せいている。また、残酷な映像と優美なピアノの調べを掛け合わせたセンスも、岩井俊二らしい独特の美醜感を匂わせていて良い。現地の俳優を起用したのも上手く成功しているように思った。
だが、いかんせん今回はストーリーがリアリティに乏しく、冗漫な展開が序盤から続くため今一つのめり込むまでに至らない。
例えば、自分の指紋や事件の証拠品をみすみす置き去りにするサイモンの愚行は、映画を見ていて一々気になる所であった。一体、警察は何をやっているのだろうか?
また、冒頭の15分にも及ぶ車中の会話は、確かに最初はミステリアスで引き込まれたが、10分も過ぎる頃には流石に苦痛になり、早く次に進んでほしいと思うようになってしまった。ストーリーを水っぽくしているだけである。
また、あのタクシーの運転手はその後どうなったのだろうか?当然、彼の口から一連の事件に関する情報が世間に広まっておかしくないはずである。
あるいは、サイモンの抑えきれぬ欲望を口で語らせてしまった演出も安易である。
クライマックスのカットバックも時間経過的な観点からすると不自然に思えた。
こうした数々の不満が映画全体の印象を悪くしてしまっている。
本作で唯一面白いと思ったのは風船の使い方だった。このアイディはユーモアに溢れていて秀逸だと思った。
また、ヒロインが登場して以降の展開はドラマ性がグンと増していくので徐々に入り込むことが出来る。しかし、このヒロインが登場するのが中盤以降というのが残念である。もっと序盤に出していれば‥と思うと、返す返すも前半の水増しな展開が惜しまれる。
尚、キャストの中ではただ一人、日本人俳優として蒼井優が参加している。出番こそそれほど多くはないが、後半のキーマンの一人となっていく。