地味ながら、何とも言えぬ余韻に浸らせてくれる。
タイトルがエロいが内容も少しエロい。
「ヴァイブレータ」(2003日)
ジャンルロマンス・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 女性ルポライター早川玲は平凡な日常生活に鬱屈していた。ある日、コンビニで出会った長距離トラックの運転手岡部に惹かれ、そのままトラックの車中でセックスをしてしまう。その時、頭の中でざわめくもう一人の自分の声が消えた感じがした。初めての平穏、初めての至福を感じる玲。彼女は岡部のトラックに便乗して東京から新潟への旅に同行する。
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(レビュー) 岡部が余りにも格好良すぎる‥という点で、あからさまに女性視点のファンタジー映画という感じがするが、玲の心理変化は男である俺にも十分理解できた。現代社会における病巣的側面を彼女の中に見る事ことが出来るからである。
玲は対人関係を上手く築けないタイプの人間で、ストレスが積み重なり精神的に病んでいる。現代社会で彼女と似たような悩みを持つ人間は多いのではないだろうか。彼女の癒しの旅を描くこの映画は近隣のものとして受け止める事が出来た。
本作は基本的にロードムービー形式で進行する。ただ、ロードムービーとはいっても、ほとんどがトラックの車中のシーンで構成されており密室劇に近い作りになっている所が面白い。時に軽妙な会話で、時に緊張感漂うベッドシーンで、玲と岡部のバックストーリーが徐々に明らかにされていく。劇的な事件が起きるわけではない。ただ、男女の触れ合い、語らいが延々と綴られていくだけなのだが、そこが”未知の世界を垣間見る”という感覚で面白く見れた。
岡部は一言で言ってしまえばヤクザな男である。この仕事に就くまでにはそれなりに荒んだ青春を送ってきた。それが平凡な人生を歩んできた玲の目には新鮮なもの、刺激的なものに写る。玲というフィルターを通して、岡部を魅力的な人間に見せているところがこの映画の肝だ。
不良に惹かれるというと少し陳腐に思えるかもしれないが、まさにそんな感じである。そして、岡部の魅力はそれだけではない。傷ついた者を抱擁する優しさも併せ持っている。この部分が、最初に述べたように少し都合良過ぎるという見方に繋がってしまうのだが、しかしキャラクターとしては大変魅力的である。
岡部役は大森南萌。粗野な役をやらせてもどこか優しさを滲ませるところが、いかにも彼らしい。普通だったらわざとらしくなる所を、この人は自然に見せてしまう。
食堂からのシークエンスは、ドラマを集約するという意味で大変見応えがあった。緊張感を漂わせたロングテイクが、その後に訪れる開放感を上手く演出している。一日の終わり、旅の終わりが感動的に締めくくられている。
カメラも良い。朝焼け、雪景色といった風景描写が、車中の閉塞感を少しだけやわらげてくれて◎。
また、バックにかかる音楽も心地良く映画の世界にドップリと浸らせてくれた。