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独裁者と小さな孫

独裁者の贖罪の旅を独特の眼差しで綴ったロードムービー。
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「独裁者と小さな孫」(2014ジョージア仏独英)星3
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ)
 ある架空の国で独裁政権が崩壊する。大統領は家族を国外へ避難させるが、幼い孫だけは駄々をこねて大統領のもとに残った。大統領は孫を抱えながら素性を隠して過酷な逃避行の旅に出る。

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(レビュー)
 独裁者と孫の逃亡をスリリング且つユーモラスに綴ったロード・ムービー。

 監督・共同脚本はM・マフマルバフ。政治的な問題で未だに亡命生活を送っているイラン出身の映画作家である。彼は若い頃に実際に独裁政権打倒の政治運動に参加していたことがある。今回の映画は、そのあたりの経験が如実に反映されているという。そういう意味では、彼の個人的な思い入れも相当強く入っているのだろう。

 ただ、一方で昨今の中東情勢における混乱に対する氏の考えも映画の端々から伺える。単に個人的郷愁からだけ生まれた作品ではなく、現代社会を広く捉えた作品と言うことも出来る。

 独裁者が倒されることで更に秩序が乱れ、結果として国の治安が崩壊するというのを繰り返しているのが現在の中東情勢である。何とも憂うべき問題だが、それを解決することは容易ではない。報復すればまた次の報復に繋がり、これが延々と繰り返されることになるからである。
 この映画は、独裁者を弾劾しておしまいとするだけでなく、いかにしてこの負の連鎖を断ち切ること出来るか?そこを問うている。

 例えば、独裁者がどんどん憐れな老人になっていくの対して、彼から酷い仕打ちを受けた民衆を血に飢えた復讐者のように描くクライマックス。民衆の一人がこう叫ぶ。「果たしてここで独裁者を処刑して何になる?それで何かが変わるのか?」
 正に彼のこの言葉が本作のメッセージを表していよう。

 確かに愛する者を奪われ虐げられてきた人々の憤りはよく分かる。劇中には目を背けたくなるような残酷なシーンが度々登場してくる。女性が兵士たちに無残にレイプされたり、子供を殺された親が兵士を詰ったり、それによって兵士が自害したり等々。
 しかし、だからと言って、戦争の張本人である独裁者に復讐をしても何も始まらないのである。本当に大切なのは、彼のような独裁者をこれ以上増やさないこと。そして、二度と同じ過ちを繰り返さないこと。それが大事なのである。そして、そのためにはどうすればいいのか?この映画はそれを問うている。

 マフマルバフが世界に投げかけたこのメッセージは非常に大きいように思う。観た人それぞれがきっと自問してしまうだろう。答えはそう容易に見つからない。しかし、考えることを止めてしまったら終わりである。一人一人がこの問いかけを胸に、一体どうすれば無益な戦争を止めることが出来るのか‥ということを考えなければならない。

 劇中で唯一の救いとなるのは、独裁者と一緒に旅をする幼い孫の存在である。孫は幸せだった頃を思い出して度々ダンスをするのだが、それに合わせて独裁者はギターを奏でる。この絵図らは実に牧歌的で、過酷な逃亡生活に暫しの安らぎを与えてくれる。このように皆が平穏な気持ちでいることができれば、きっと世界も平和になるだろう‥。そんなふうに思えた。
 おそらくこのダンスシーンは一つの”希望”の象徴として、マフマルバフ監督が最も重要視したシーンではないだろうか。特にラストのダンスが印象に残った。

 映画は基本的にシリアスなトーンが横溢するが、こうしたユーモアが各所に散りばめられているので決して息苦しい映画とはなっていない。”かかし”のクダリにもクスリとさせられたし、検問を突破するシーンのやり取りもハラハラさせられると同時にどこかユーモラスに見れた。元々、マフマルバフはこうしたユーモラスな演出を得意とする作家なので、このあたりは実に堂に入っている。

 また、独裁者に過度に感情移入させない作りもマフマルバフ監督らしいと思った。見る側に彼の逃亡を客観視させることで、件のクライマックスの弾劾の”意味”を観客夫々の問題として考えて欲しい‥と狙ったのだろう。普通であれば独裁者の独白を入れながら物語を進行させてもいいはずである。しかし、敢えて本作はそうしていない。

 ただ、逆に言うと、この客観的な語り口がドラマを物足りなくしてしまっているのも確かである。特に、中盤がダレるのが気になった。独裁者のプライベートを描く娼婦との再会は、少々クド過ぎる上に、彼個人ドラマとしてはいささかパンチに欠ける。予め独裁者の内面に寄せた作りになっていればもっと興味深く見ることが出来ただろうが、どうもそのあたりのドラマ性が弱い。

 また、どこかの架空の国という設定も、若干ドラマを空疎にしてしまっている感じがした。実名を挙げて描けなかったのか?あるいは、より普遍的な物語にしたかったのか?それは分からないが、今回の映画は決してリアリティのあるドラマとは言い難い。あくまで寓話として捉えるべきであろう。
[ 2015/12/25 00:24 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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