動物と子供は反則というが、その嫌らしさを感じさせない作りは流石。
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社 (2013-07-03)
売り上げランキング: 10,658
「戦火の馬」(2011米)
ジャンル戦争・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 第一次大戦前夜のイギリス。貧しい農夫テッドは貧弱な仔馬を競り落して帰宅する。長男アルバートはその仔馬にジョーイと名付け可愛がった。暫くして戦争が始まり、家計が苦しくなったテッドはジョーイをイギリス軍に売ってしまう。嘆き悲しむアルバートだったが、すでに他人の手に渡ったジョーイを前にして再び会うことを約束して別れた。その後、ジョーイは様々な人々と出会いながら過酷な戦火の中を渡り歩いていく。
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(レビュー) 同名の児童文学をS・スピルバーグが製作・監督した戦争ドラマ。
前半はアルバートとジョーイの友情ドラマ、後半はジョーイの視座で進む戦争ドラマになっている。後半のエピソードが散文的になってしまったのはいただけないが、ラストをキッチリまとめ上げたあたりは流石はスピルバーグである。堂々とした感動巨編になっている。
唯一、中盤で描かれる少女のエピソードが他のエピソードに比べて少々長ったらしく感じた。見ている最中フラストレーションが溜まったが、しかし全編見終えてみると、その意味が分かった。なるほど、ラストを”こうする”のであれば納得である。こうした数奇な運命も大変ドラマチックで面白かった。
また、随所に見せるユーモアも中々楽しめた。今作はディズニー製作の作品なので、いわゆるスピルバーグの”明”の部分がよく表れた作品となっている。
例えば、かつて「プライベート・ライアン」(1998米)でリアルな戦場の地獄絵図を再現して見せた彼にしては、今回の戦場表現は随分と和らいでいる。無論、元々が児童文学ということが関係しているのだろう。親子揃って見れるファミリームービー志向の演出となっている。
加えて、ジョーイの視座で語られる戦争ドラマなので人間サイドのドラマには必要以上に迫らない作りになっている。これによって戦争の生々しさが払拭され、いわゆる寓意的なテイストが貫かれている。
逆に、それによってジョーイが体験する数々のエピソードが淡々と見れてしまう傾向にあり、そこが最初に述べた”散文的”という印象に繋がってしまっている。ここは善し悪しあろう。
ともあれ、スピルバーグの演出手腕は相変わらず冴えていて、ベースとなる少年と馬の友情ドラマは実に手堅くまとめられている。クライマックスからラストにかけての展開も涙無くして見れない。この安定した仕事ぶりは見事だった。
撮影は先述した「プライベート・ライアン」でもタッグを組んだJ・カミンスキー。彼はその時に見事にオスカーを受賞したが、今回は時折絵画のような美しさで寓話的な映像作りをしている。「プライベート・ライアン」とはまったく違った映像に挑戦していて新鮮だった。ともすれば人工的な光源が鼻に突くカットもあるのだが、おそらくこれも元が児童文学ということを意識した画作りなのだろう。とにかく画面は大変美しい作品である。