ヒッチコックの”ある作品”を思い出させるが、やはりデ・パルマは狙っているのだろうか?
紀伊國屋書店 (2011-09-24)
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「愛のメモリー」(1976米)
ジャンルロマンス・ジャンルサスペンス
(あらすじ) アメリカ南部の事業家マイケルは、愛する妻と娘と幸せな家庭を築いていた。しかし、ある夜、二人は誘拐されてしまう。その後、マイケルが身代金を出し渋ったために二人とも殺されてしまった。それから数年後。失意のマイケルは、親友で会社の片腕ロバートと旅行に出かけた。そこは妻との思い出の場所だった。彼はそこで妻と瓜二つのサンドラという女性と出会う。
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(レビュー) 愛する者を失った男の苦悩を幻想的なタッチを交えて描いたサスペンス作品。
監督はブライアン・デ・パルマ。脚本はデ・パルマとP・シュレイダーが共同で務めている。正直、シュレイダーが書いたとは思えぬほどメランコリックな物語だが、これはデ・パルマの意向が強く反映された結果なのだろう。というのも、この映画。完全にA・ヒッチコック監督の「めまい」(1958米)の影響が強い。
「めまい」は、死んだ女性と瓜二つの女性に惹かれていく元刑事の姿をスリリングに描いた映画である。今回の物語はそれと重ねて見ることが出来る。
映画ファンの間ではよく知られていることだが、デ・パルマはヒッチコック映画のオマージュを度々していて、以前このブログでも紹介した
「悪魔のシスター」(1973米)は明らかにヒッチコックの「裏窓」(1954米)と「サイコ」(1960米)の影響下にある作品だった。
そんなデ・パルマが撮った本作である。おそらくは、「めまい」をかなり意識しているように思う。
映画序盤は、誘拐事件を軸にしたスリリングな展開で中々面白く見ることが出来た。
そこから舞台は数年後に移り、失意のマイケルと死んだ妻に似たサンドラの恋慕が語られる。しかし、ここからが非常に退屈した。サンドラのミステリアスな造形は良いとしても、ドラマ的な発展がないのが苦痛である。2人の関係が深まって行く過程を描くのは大事だと思うが、マイケルのサンドラに対する”疑念”が完全に抜け落ちてしまってるため、見てて「それはないだろう」という突っ込みを入れたくなってしまった。もし、ここにマイケルの葛藤や疑念が織り込んであれば、もう少し二人の関係を面白く追いかけることが出来ただろう。
ただこの映画、後半の2/3あたりから再び面白くなってくる。サンドラと過去の誘拐事件の繋がり、影の暗躍者が判明してくることで画面にグイグイと引きつけられるのだ。
クライマックスの盛り上げ方も◎。ここはデ・パルマらしいスローモーション演出が素晴らしかった。マイケルとサンドラの愛憎をドラマチックに見せるとともに、ハッピーエンドとバッドエンド、どちらに転がるのか最後の最後まで引っ張った演出が秀逸である。これぞ”ツイスト”の極地だろう。
もっとも、映像の技巧派デ・パルマにしては、今作にはそれほど凝った演出は出てこない。唯一挙げられるのが、先述のクライマックス・シーンくらいで、それ以外は端正にまとめられている。ファンからしてみればもう少しメリハリの効いた演出を見てみたかった‥という気がしないでもない。
キャストは夫々に好演していると思った。
まずは、何と言ってもマイケルを演じたクリフ・ロバートソンの渋い演技が良かった。亡き妻の面影を追いかける男の哀しさを丁寧に演じている。
マイケルの妻とサンドラの二役を演じたG・ビジョルドの演じ分けにも感心させられた。
一方、ロバートを演じたJ・リスゴーは完全なミスキャストのように思う。そもそも彼が登場した時点で、何か悪いことをたくらんでいる…というふうに見えてしまう。ここはもっと地味目な役者に演じてほしかった。