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暗黒の恐怖

パンデミックの恐怖を描いたサスペンス映画。
巨匠たちのハリウッド エリア・カザン傑作選 暗黒の恐怖 [DVD]
ブロードウェイ (2012-12-07)
売り上げランキング: 42,073

「暗黒の恐怖」(1950米)星3
ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 ある夜、ニューオリンズの港で密航者が殺害される。司法解剖の結果、被害者は肺ペストにかかっていた事が判明する。衛生局のリード博士が駆けつけて事態の収拾に奔走した。これに対して市長は感染を拡大させないように緊急会議を開く。リードはニューオリンズ市警のウォーレン警部と一緒に密航者を殺した犯人捜しを始める。

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(レビュー)
 パンデミックの恐怖を描いたサスペンス映画。

 邦題がいかにもフィルム・ノワールっぽいタイトルだが、そこかしこに見られる映像も確かにその雰囲気を醸し出している。ただ、基本的には医師と刑事がペストの感染拡大を阻止するドラマで、いわゆるフィルム・ノワールの常道からは少し外れた作品となっている。冒頭の殺害シーンこそ、それなりの”暗黒描写”で惹きつけられたが、序盤はいささか緊張感を失した展開が続いた。

 第一、感染症の疑いを持った市井の人々に聞き込みに行くクダリが安穏としていて、いただけない。リード達は方々で消毒と注射を施して感染を防げたと言っているが、果たして本当にそうだろうか?もっと他に感染者がいるのではないか‥と疑問に思った。

 この映画は犯人サイドのドラマが描かれており、個人的にはそちらの方が印象に残った。
 密航者を殺害した犯人は3人組のヤクザである。そのうちの一人がパンデミックの件で警察に連行される。警察はパニックを恐れて公表しないまま取り調べをするのだが、これがきっかけで3人は互いを疑心暗鬼の目で見るようになる。やがて、その中の一人が肺ペストを発症してしまう。

 ここではボスの存在感がピカイチで、これをジャック・パランスが演じている。本作が彼のデビュー作である。その造形は正しく怪優そのものといった面構えで強烈に印象に残った。彼は第二次世界大戦で従軍した経験があり、火災で火傷を負い顔を整形手術した。

 一方、犯人捜しをするリード博士とウォーレン警部のドラマも、中盤から面白く見れるようになっていく。
 ウォーレンは最初はリードの話を信用していなかったが、一緒に捜査をするうちに事の重大さに気づき協力的になっていく。やがて二人の間には信頼関係が築かれていくようになる。この変遷が中盤からしっかりと描かれている。

 尚、リード博士は決してヒロイックな活躍はしないが、正義感と人間味に溢れたキャラクターで親しみが湧いた。こちらはR・ウィドマークが演じている。彼も強烈な個性を持った俳優で、どちらかと言うと悪役の印象が強い。しかし、今回は敢えて正義感溢れる役所となっている。まだ若々しく、後年ほどのアクの強さがないので、見ててそれほど違和感を持たなかった。

 監督はエリア・カザン。本作は原作物であるが、彼の経歴を考えると、この物語には当時の”赤狩り旋風”が意識されているような気がした。というのも、ご存知の人もいるかもしれないが、彼は後にハリウッドの赤狩りに協力したことで、長年”裏切り者”のレッテルを貼られ続けた人物である。そのおかげで彼は自由な映画製作を許され数々の名作を生み出すことができた。しかし、現在でもハリウッドの中では彼の裏切り行為に憤りを感じている者がいると言う。
 そう考えると、今回のペスト根絶のドラマには、何となく赤狩り根絶の世相を重ねて見ることができてしまう。当時の機運として反共産主義の空気はアメリカ中に蔓延していたわけであるから、カザン自身も意識してなかったわけではあるまい。

 尚、翌年にはH・ホークスが製作したSF映画「遊星よりの物体X」(1951米)が公開されている。こちらに登場するエイリアンも共産主義者のメタファーと言われている。
[ 2016/02/20 00:59 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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