アクティブな主人公が良い。
「オデッセイ」(2015米)
ジャンルSF・ジャンルアクション・ジャンルコメディ
(あらすじ) 火星の有人探査計画アレス3が砂嵐に見舞われてミッションを中止する。その最中、クルーの一人で植物学者の宇宙飛行士ワトニーが行方不明になった。リーダーのルイスはワトニーの捜索を断念して火星から脱出した。ところが、ワトニーは奇跡的に命を取り留めていた。通信手段が断たれ、食料も残り僅かな中、彼は過酷なサバイバルを始める。一方、彼の生存を確認したNASAは急遽、ワトニー救出の計画を立てる。
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(レビュー) 火星に取り残された宇宙飛行士のサバイバルをユーモアを交えて描いたSF映画。
何とも楽天的な主人公だが、それが生存の肝だった‥という所が面白い。どんな逆境に立たされても知恵と勇気があれば乗り切れる。そんな前向きなメッセージが感動的である。
かつて英国首相ウィンストン・チャーチルは「悲観主義者はすべての好機の中に困難を見つけるが、楽観主義者はすべての困難の中に好機を見つける。」 という言葉を残した。この映画も正に言っていることは一緒で、映画を見終わった後には、自分も常に前向きな思考を大切にしたい‥と思った。
主演はM・デイモン。火星のシーンでは、ほぼ彼の一人芝居が続き、改めて彼の演技力の高さに感心させられる。カメラに向かって独白する姿はユーモアに満ちていて大変面白く見れた。また、減量しての役作りにも苦労がしのばれる。本作で彼はオスカーにノミネートされたが、それも納得の好演だった。
監督はR・スコット。SFから歴史物まで幅広い作品を撮る監督だが、デビュー時に比べると作家性は大分薄れてきたように思う。今となっては何でも器用に撮れてしまう職人監督のようになってしまったが、相変わらず上手い監督であることに変わりはない。
火星のシーンとNASAのシーン、そして他のクルーが乗る探査船のシーン。この3つだけでストーリーを上手く進行させた所は見事だった。軽快な演出の賜物だろう。ワトニーのバックストーリーが若干希薄だったのは残念だが、敢えてドキュメンタリー・タッチを貫いたことで大変スッキリとした構成になっている。
逆に、今作は深みを求めてしまうと物足りない作品かもしれない。ワトニーの葛藤はシンプルで、ドラマも極めて狭い範囲でしか展開されない。火星とNASAのシーンが反復され、登場人物もミニマムに設定されている。深い感動を期待すると肩透かしを食らうかもしれない。基本的にはシチュエーション・コメディのような作りになっているので、ライトな感覚で見た方が良いだろう。
とはいえ、次々と起こる火星でのアクシデントは、見ているだけでも十分楽しく、ある種<サバイバル疑似体験映画>=<アトラクション映画>としては十分の見応えがある。決して退屈な映画ではない。
映像の作り込みも申し分ない。火星の平原はCGを駆使して再現しているのだろう。このあたりのクオリティを見ると、さすがはハリウッドといった感じである。ただ、欲を言えばNASAの描写だけはもう少し変化をつけても良かったような気がした。会議や記者会見ばかりでは余り面白味がない。動きが乏しいシーンなので余計にマンネリズムを感じてしまう。
BGMも作品のトーンを考えれば上手く厳選されていると思った。船長が残した懐かしいディスコが時折かかるが、この懐メロ感がSFというジャンルでは意外な面白さを生んでいる。一昨年観た
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(2013米)でもこのギャップが新鮮だった。
尚、本作には原作がある(未読)。どうやらこの原作は、日本でもSFファンの間ではかなり話題になったらしい。聞くところによると、映画に登場する様々な植物学的考証は実際に実現可能らしい。そのあたりが、うるさ型のSFファンにも認められたのだろう。今回の映画化に当たってはそこは相当重視しているような気がした。