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ロブスター

一風変わったディストピア映画。
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「ロブスター」(2015アイルランド英ギリシャ仏オランダ米)星3
ジャンルSF・ジャンルコメディ・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 妻に愛想をつかされ独り身となってしまったデヴィッドは、兄である犬と共に独身者だけが宿泊する”あるホテル”にやって来た。彼はそこで45日以内にパートナーを見つけなければ、自分が希望した動物に姿を変えられてしまうのだった。早速パートナー探しを始めるデヴィッドだったが、周囲が次々とカップルになっていく中、彼だけが思うような相手を見つけられずにいた。刻一刻と期限が迫る中、焦った彼は冷酷非情で有名な女性とパートナーになる決心をした。ところが、これが彼にとんでもない運命を背負わせることになる。

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(レビュー)
 独身者は人に非ず、結婚しなければ人間辞めてもらいます‥。何とも恐ろしい未来だが、映画の作りはどこまで行ってもシュールなので、中々楽しんで見ることが出来た。但し、そこかしこにブラック・ユーモアが登場するので、好き嫌いはハッキリ分かれようが‥。

 ところで昨今、日本では非婚者が増えているという状況にある。この傾向は程度の差こそあれ、先進国の都市部では顕著という統計が出ている。そんな社会的状況を考えてみると、この映画の特異な世界観には何となく頷ける物がある。結婚して子孫を反映しなければ人類は衰退してしまう。その危機感がこうしたディストピアを作り出したのだとしたら、これは中々鋭い風刺のように思った。

 キャストは豪華な布陣が揃えられている。C・ファレル、レア・セドゥ、レイチェル・ワイズ、ジョン・C・ライリー、ベン・ウィショー。ハリウッド映画でもよく目にするスターたちが、一癖も二癖もあるキャラクターを演じている。決して大作と言うわけでもないのに、これだけの顔ぶれがそろうのは異例であろう。

 そんな豪華キャストをまとめ上げたのは、これが長編2作目となるヨルゴス・ランティモスという新鋭である。彼は前作「籠の中の乙女」(2013ギリシャ)が世界的に注目され、本作の監督に抜擢された。

 自分は残念ながらこの監督の処女作を見てない。しかし、本作を見る限りかなり特異な作家性を持った監督のように思った。シュールでオフビートな笑い、時折繰り出すバイオレンス。「ドライヴ」(2011米)「オンリー・ゴッド」(2013デンマーク仏)等で知られるニコラス・ウィンディング・レフンに似てなくもない。更に元を辿ればジャームッシュやカウリスマキ、北野武、ブレッソンまで遡れるかもしれない。要するに登場人物の感情を明確に外に向けて表現するのではなく、常にクールな表現に留めているのが特徴的だと思った。

 本来ドラマチックに盛り上げて然るべきラストも、敢えて”外し”にかかっている。これをハッピー・エンドと取るか、ビター・エンドと取るか、それは見た人夫々によって大きく解釈が分かれるだろう。実に曖昧に表現している。こうした曖昧な表現を通して、監督は常に観客に謎かけをしているような気がした。そこがこの映画は面白い。
 ちなみに、自分はこのラストにビターな鑑賞感を覚えた。しかし、「見たくもない現実を見なくても済む」という意味から”救済”と取る人もいるだろう。

 また、その一方で、スローモーションを駆使した、ある種フォトジェニックな映像演出。あるいは無機的で絵画的な画面構成等、かなりの美的感性を持った監督のようにも思った。ホテルの幾つかのシーンでは、S・キューブリック監督の「シャイニング」(1980米)を想起させられたりもした。

 反対に、見てて気になった箇所が1点だけあった。これは構成の問題、あるいは編集の問題という気がする。レイチェル・ワイズが目の手術を受けて以降の展開で、彼女が町から森に戻ってくる場面転換が唐突に写った。

 また、作劇に関しては少し綻びが多い気がした。サブキャラ含め、多くの登場人物のエピソードが尻切れトンボでまとまりに欠ける。例えば、ホテルの支配人は後半からほとんどその姿を見せない。彼らはその後一体どうなってしまったのだろうか?また、ジョン・C・ライリーのその後も気になってしまった。このあたりのフォローは欲しかったかもしれない。

 それにしても、C・ファレルは随分とイメージを変えたものである。かつてはイケてる兄ちゃん役が多かったが、今回はガラリと風貌を変えて冴えない中年太りのオッサンになってしまっている。彼のファンであれば、この変貌ぶりは一見の価値があるだろう。まさか、あのC・ファレルが‥!という意外な驚きがあった。
[ 2016/04/13 00:46 ] ジャンルコメディ | TB(0) | CM(0)

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