真実を追求する記者たちの物語。非常に硬派な作品。
「スポットライト 世紀のスクープ」(2015米)
ジャンル社会派・ジャンルサスペンス
(あらすじ) ボストン・グローブ新聞社に新任編集局長バロンが赴任してくる。彼は、過去に地元で起こった神父による子どもへの性的虐待事件に注目すると、これをスポットライト(特集記事)にする方針を打ち立てた。早速、ロビーを中心とした取材チームが調査を始める。彼らは事件の背後に隠された巨大な疑惑に迫っていく。
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(レビュー) 実話を元にした社会派作品。今年の米アカデミー賞で作品賞と脚本賞に輝いた話題作である。
主人公となるのはボストン・グローブ紙の記者たちである。デスクのロビーを筆頭とした3人の記者たちの奮闘が描かれている。夫々に個性的なキャラ立ちをしており、特にリーダーとなるロビーの粘り強い取材姿勢、がむしゃらに事件背景を追いかける熱血記者マイクが印象に残った。
ただ、本作は基本的には群像劇風な作りなため、ドラマの視座は複数存在する。この作り方は好き嫌いが出てくるかもしれない。正直、序盤は見てて余り乗り切れなかった。誰の視座でストーリーを追いかけて良いのかよく分からなかったからである。
ただ、彼らが事件の背後に隠された真相を追求していく過程は緊密に作られており、ドキュメンタリー・タッチな演出も相まって非常に引き込まれた。特に、被害者に対する取材あたりから、ドラマはグンと面白くなってくる。事件の当事者が出てくると、やはりストーリーも白熱してくる。事件を追いかける記者達の執念。真実を白日の下に晒して巨悪の根源を断とうという熱意がビンビンと伝わってきた。淡々とした作りではあるが、端正に積み上げた取材過程が後半から効いてくる。
ラストにもカタルシスを覚えた。記者たちの信念と責任感、闘争心。これには熱いものが込み上げてきた。
そして、ロビーの胸中を察すると、ジャーナリストとは実に難儀な商売であると痛感させられる。ラスト手前の彼の”告白”が皮肉的に反芻された。
監督、共同脚本は
「扉をたたく人」(2007米)のトム・マッカーシー。「扉をたたく人」もそうだったが、今作も社会派的なメッセージを強く押し出した作品となっている。キリスト教会の腐敗した体制に鋭く切り込んだのだから、おそらくアメリカでは相当センセーショナルに受け止められただろう。監督の、これを伝えたいという姿勢が映画全体から感じ取れた。これは一人の映画作家としてでなく、一人のアメリカ国民として、あるいは本作に登場するジャーナリストたちの代弁者としてのメッセージだろう。
演出は今回も非常にミニマムにまとめられている。良く言えば丁寧、悪く言えば地味ということになろうか…。ただ、先述したように、地味ゆえに、誰か一人の視点に絞った方がこの物語はより濃密になっただろうと思う。主人公が”個人”ではなく”チーム”になってしまったのがドラマを弱くしてしまっている。
とはいえ、オスカーを受賞した脚本は非常に緊密に構成されており、場面転換が早く、一瞬も気が抜けないほど次々と記者たちの取材が続くので、終始画面から目が離せなかった。
キャスト陣の演技も素晴らしかった。4人の記者たちは見事に個性的に造形されており、私生活も僅かだが登場してくる。仕事とは違った顔を見せるあたりに人間味が表れていて良かった。特に、マイクを演じたマーク・ラファロの熱演が目を引いた。
尚、こうしたカトリック教会内部における児童虐待については、以前見た
「ダウト~あるカトリック学校で~」(2008米)等でも語られていたので、さもありなんという印象である。ずっと昔からこういうことが行われていたのだろう。ただ、今回はそれを組織が隠ぺいしたという事実が衝撃的であり、そこを告発したことは大変意義深いと思う。