長谷川一夫300本記念作品として作られた大映のオールスター時代劇。
角川書店 (2012-11-16)
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「雪之丞変化」(1963日)
ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス
(あらすじ) 上方歌舞伎の女形役者・中村雪之丞は、死んだ父の仇を討つために江戸に巡業でやって来た。ところが、敵である土部三斎の娘・浪路が雪之丞を一目見て惚れてしまう。 雪之丞は彼女を利用して三斎に近づこうとするのだが‥。
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(レビュー) 同名時代小説を、伊藤大輔と衣笠貞之助が脚色、和田夏十がシナリオ化し、市川崑がメガホンをとった作品。
1935年に一度映画されているが、その時に主演した長谷川一夫が、今回も中村雪之丞と闇太郎の二役を演じている。尚、1935年版は衣笠貞之助が監督、伊藤大輔が脚本を担当していた(未見)。
初っ端から申し訳ないが、長谷川一夫の年齢は製作当時すでに55歳だったそうである。周囲を魅了する”世紀の女形”という設定の割には、どうにも年を取り過ぎている。
今作は彼の映画出演300本を記念して製作された作品である。ずっと第一線で活躍していた功績は認めるが、実年齢とのギャップはどうしても埋められなかったという印象である。1935年版の方は未見だが、そちらの方が無理なく演じられていたのではないだろうか?
そんなわけで、自分にとって今回の映画は設定の時点でまったく乗り切れず、終始身が入らなかった。
ドラマ自体は実に堅牢に構築されているし、メロドラマとしても、復讐劇としても十分に見応えがある。前半は雪之丞のバックボーンをミステリアスに綴ったサスペンス。後半は雪之丞と浪路の悲恋を描くロマンス。抑える所をきちんと抑えたストーリーは申し分ない。しかし、先述したとおりキャスト面で今一つ乗り切れなかった。
一方、市川崑監督の映像演出には、幾つか目を見張るものがあった。
舞台劇のようなセットと現実の背景を交錯させながら、実にシュールで幻想的な世界が構築されている。この独特の映像美は流石の一言である。
一方、音楽はジャジーっぽい曲で占められている。しかし、これが時代劇に今一つ合わないと思った。音楽を担当するのは芥川也寸志。彼はどうしても先鋭的なものを求めたがるようである。面白い試みだと思うが成功しているかどうかと言えば、甚だ疑問である。
本作は大映が製作しており、キャスト陣が豪華で見応えがある。市川雷蔵が長谷川演じる闇太郎と張り合う小物のコソ泥、昼太郎を演じている。また、大映の看板スターとして市川と共に活躍した勝新太郎が終盤でチョイ役で登場してくる。更に、重鎮・中村鴈治郎が三斎役を貫録の好演で盛り上げている。
女優陣では山本富士子、若尾文子が登場している。こちらは浪路役の若尾文子の方が見応えがあった。山本富士子は女泥棒・お初役を演じ雪之丞と因縁めいた関係になっていくが、セリフ回しが余り上手くない。やはり彼女にはもっと上品な役の方が似合っていると思った。