三者三様。個性的な作風で魅せるオムニバス作品。
KADOKAWA / 角川書店 (2015-10-30)
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「女経」(1960日)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 第1話「耳を噛みたがる女」‥銀座のキャバレーでホステスをしている紀美は、客から金を巻き上げて株に投資をしている”したたか者”である。ある晩、会社社長の跡取り息子・正巳からドライブに誘われる。
第2話「物を高く売りつける女」‥作家の三原は今の暮らしから逃げるようにして疾走した。その先で一人の女性と出会う。数日後、一軒の別荘の前で彼女と再会した。三原は売りに出しているというその家を、彼女ごと買い取ると申し出る。
第3話「恋を忘れていた女」‥元売れっ子芸妓だったお三津は、現在は京都で修学旅行専門の宿を切り盛りしていた。ある日、亡き夫の妹が結婚資金を貸して欲しいとやって来る。財産を横取りされると思ったお三津はそれを断ってしまう。
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(レビュー) 3人の監督が3人の女優を主演に据えて描いたオムニバス作品。夫々にヒロインの描き方が特徴的で、そこを見比べてみると面白い映画である。
第1話は、増村保造監督の作品。主演は若尾文子。息の合ったコンビ振りが今回も冴えわたった快作である。
特に、増村監督らしい軽妙洒脱な会話劇が面白い。キャバレーの楽屋での会話などは実に俗っぽいのだが、これがユーモラスで面白い。また、ホテルのユニットバスが当時はまだ珍しかったり、パチンコが遊興の王様だったというのも、興味深く見れた。
もちろん若尾文子の妙縁も素晴らしかった。増村作品のミューズとして今回も艶めかしくも可愛らしい魅力を振り撒いている。
また、今回のドラマは「嘘」を巡る皮肉めいた訓話として良く出来ていると思った。自分のためにつく「嘘」。相手のためにつく「嘘」。「嘘も方便」という言葉があるが、「嘘」にも色々ある。見終わった後にしみじみとさせられた。
第2話は、市川崑監督の作品。主演は山本富士子。
幻想的なオープニングが印象的なファム・ファタール映画である。したたかにして魅惑的なヒロインを演じた山本富士子の凛とした佇まいが作品に風格を与えている。彼女に翻弄される作家・三原役を演じた船越英二もいかにも”らしい”演技で敵役。
ストーリーも途中でどんでん返しが用意されていて楽しめた。ラストも洒落たオチで心憎い。短編にしてはよく捻られた展開で飽きさせない。
第3話は、吉村公三郎監督の作品。主演は京マチ子。
「恋を忘れていた女」というサブタイトルの通りのドラマで、特に捻りはないものの安定感のあるエピソードである。いわゆるメロドラマであるが、義妹の婚約と修学旅行の学生との絡ませ方も絶妙だった。
ただ、他の2作品に比べると若干、凡庸な作りなのが残念である。吉村公三郎は市川や増村に比べると作家性と言う点では、それほど尖った個性を見せない監督である。よく言えば安定感があるが、悪く言えば普通に見れてしまうエピソードである。
尚、1シーンだけ中村鴈治郎が登場する。京マチ子に言い寄るイヤらしい演技が絶品だった。同じコンビでは市川崑監督の
「鍵」(1959日)が思い出される。あの時もこのような助平爺役だったが、氏はこういう役をやらせると大変上手い。