軽妙な官能ロマンス。
角川書店 (2012-10-26)
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「卍(まんじ)」(1964日)
ジャンルロマンス・ジャンルエロティック
(あらすじ) 美術学校に通う人妻・園子は光子という女性と出会い、その美貌に心を奪われる。園子は彼女を自宅へ招き入れ、夫の留守中に関係を持った。それから2人は度々逢瀬を重ねるようになる。ところが、光子には綿貫という情夫がいた。園子は彼に”ある誓約書”を書かされるのだが‥。
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(レビュー) 小悪魔な魅力で周囲を虜にしていく光子。そんな彼女に心奪われながら翻弄される人妻・園子。二人の女の愛憎を耽美的なタッチで描いたメロドラマである。
原作は谷崎潤一郎の同名小説。それを増村保造が監督、新藤兼人が脚本した作品である。
いわゆる三角関係を描いたドラマであるが、増村の軽妙且つスタイリッシュな演出のおかげで、どこか屈託なく見れる作品に仕上がっている。深刻に描けば、さぞかしドロドロした愛憎ドラマになったであろうが、今作は割とライトに見れる。
特に、終盤における光子、園子、園子の夫の関係に着目すると、もはや喜劇としか思えないようなバカバカしくも愚かし人間の本性が垣間見えて面白い。
光子&園子というカップルの視座から一転。光子の”化けの皮”が剥がれることによって、園子&夫の視座に切り替わり、彼らは”覚醒”した光子の捕縛者と成り果てる。光子のしたたかさは、もはや完全にファム・ファタールの極みと言わんばかりで、彼女に手名付けられてしまう二人の滑稽さが笑いを誘う。三者の関係がひっくり返ってしまう終盤は意外性に満ちていて面白く見れた。
ラストも印象的だった。実に人を食った終わり方である。
但し、この終盤の展開は若干性急に写ったのも事実で、例えば光子と綿貫の関係が一体どんな風に終焉したのか?そのあたりをもう少し詳しく見せて欲しかった。園子たちの知らない所で破局してしまうのだが、どういった事情があって二人は別れてしまったのか?その理由が見てて気になってしまった。
キャストでは光子役を演じた若尾文子の艶っぽい演技が堂に入っていた。増村監督とのコンビ作は多く、若尾はまさに彼にとってのミューズだったわけであるが、本作ほど彼女の小悪魔的魅力を前面に出した作品というのもないだろう。彼女が喋る京都弁も柔和な感じで色っぽくて良かった。
また、綿貫を演じた川津祐介の軽妙な演技も良かった。彼がここまで軽薄な男を演じるというのも珍しかろう。
尚、光子役の若尾と園子役の岸田今日子のラブシーンは、実にセクシーに撮られているが、ヌード・シーンは、当然吹き替えである。無論吹き替えだと分からぬように上手く撮ってあるのだが、その事実を知ってしまうと少し残念な思いになってしまう。