驚異の140分1カット撮影!
「ヴィクトリア」(2015独)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) スペインからベルリンにやって来た女性ヴィクトリアは、クラブで出会った4人組の青年達と楽しいひと時を過ごした。リーダーのゾンネと親しくなり、再会を交わした直後、彼らにトラブルが発生する。彼女はそれに巻き込まれることになり‥。
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(レビュー) ベルリンの街を舞台にした全編1カット撮影によるノンストップ・サスペンス映画。
去年見たイニャリトゥの
「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014米)も全編1カットの映画だったが、あちらはCGを駆使しながらかなりトリッキーな撮影に挑んでいた。それに比べると今作は、ヴィクトリアが夜の街で出会った青年達のトラブルに巻き込まれる‥という極めて簡素な内容となっている。140分を手持ちカメラで延々と追っただけで、余分な装飾を取り払った非常にシンプルな映画である。
正直、ドラマ性という点では「バードマン~」に比べて空疎である。ただ、異国の地で犯罪に巻き込まれる緊張と不安。そして絶望的なラストに向って駆け抜ける疾走感は並々ならぬ迫力で切り取られていて、140分という長丁場にも関わらず全然飽きなかった。
確かに、後先考えずに犯罪に突っ走って行くゾンネ達の行動に安易さを覚えなくもないが、見る見るうちに窮地に追い込まれていく彼らを見ているとまるで「俺たちに明日はない」(1967米)のような哀愁も湧いてしまう。
また、ヴィクトリアがゾンネと親密になるカフェのシーンが中々抒情的で、前半のたわいもない日常描写から後半のサスペンス描写へ上手く橋渡ししていると思った。ヴィクトリアのバックストーリーに一歩踏み込むことで、クライマックスにかけての彼女の”選択”が単なる無軌道な破滅志向ではなく、あるいは彼女なりの人生の”仕切り直し”だったのではないか‥と思えるようになってくる。ここは非常に重要なポイントだろう。
それにしても、140分を1カット、オール・ロケで撮るなんてよく思いついたものである。仮に思いついたとしても実行するのはかなり難しい。幸いこの映画はほとんどが明け方の撮影という事で最小限のエキストラで済んでいる。しかし、終盤は夜も明けて、ベルリンの街は動き出している。その中で警察が出動したり銃撃戦が繰り広げられるのだから、かなり用意周到な準備をしなければ撮影は不可能だったろう。失敗が許されない撮影を敢行したスタッフとキャストの頑張りには素直に拍手を送りたい。