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オマールの壁

この極上の社会派エンタテインメントがまさかのパレスチナ映画!
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「オマールの壁」(2013パレスチナ)star4.gif
ジャンル社会派・ジャンルロマンス・ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 パレスチナでパン職人をしている青年オマールは、高い壁で分断された向こう側に住む友人や恋人ナディアと度々密会していた。ある日、オマールは友人たちと共にイスラエル兵の狙撃を企てる。イスラエル秘密警察に捕まったオマールは激しい拷問を受け、釈放と引き換えに仲間を売ることを脅迫された。必死に抵抗を続けるオマールだったが…。

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(レビュー)
 パレスチナの分断された土地に住む若者たちの愛と青春を描いた犯罪映画。

 ちなみに、この映画は物語の背景について多少知った上で見た方がいいと思う。パレスチナにはイスラエルの入植地を取り囲む格好で高い塀が建造中である。その高さは約8メートル、全長700kmにも及ぶと言う。これによってパレスチナ人の生活は分断されてしまっている。

 製作・監督・脚本はハニ・アブ・アサド。自爆テロにのめり込んでいくパレスチナ人青年の悲劇的な青春を描いた「パラダイス・ナウ」(2005仏独オランダパレスチナ)で世界的に注目された監督である。今回はその時よりも大分エンタメ要素が強まっており、おそらく多くの人に共感を得られる作品になっていると思う。

 まずは何と言っても、主人公オマールとナディアのロマンスである。
 文字通り”壁”で隔たれた恋愛ドラマで、メロドラマの王道をいくような筋立てとなっている。当然そこにはイスラエルとパレスチナ、分断された二つの世界という社会的構造が大きく関係しているが、今回は「パラダイス・ナウ」ほど、頭でっかちな作りにはなっていない。シンプルな若い男女の恋愛ドラマとして等身大の姿が綴られている。そこに誰が見ても共感できる普遍性がある。

 今作のエンタメ要素のもう一つはサスペンスである。イスラエルの秘密警察に捕まったオマールは止む無く密告者になってしまう。オマールの葛藤は、さながらスパイ映画のようなスリリングさで描かれ、これも大変面白く見れた。

 全体を通して訴えるテーマは大変骨太で深刻なものである。イスラエル・パレスチナ間の軋轢は今もって解決できない根深い問題であり、それによって生活圏をどんどん縮小させられるパレスチナ人が後を絶たない。監督のハニ・アブ・アサドもそのあたりの所はかなり熟知していて、真摯にこの問題に向き合っていると思った。

 ただ、シリアス一辺倒では見ている方としても疲れてしまう。そのためのエンタメ要素である。本作はそれが絶妙なバランスの上で成り立っている。正に一級の娯楽作品とはかくあるべし‥である。

 所々には気を利かせたユーモアも散りばめられており、そこも映画を取っつきやすいものにしている。
 例えば序盤、ナディアの兄で革命組織のリーダー、タレクが、おどけて「ゴッドファザー」(1972米)のマーロン・ブランドの物まねをして見せる。大変微笑ましいが、同時にオマールが後に裏切り者になって組織の情報を売り渡すことを考えれば、このシーンは冷徹なギャング映画のオマージュであることが分かる。事実、秘密警察とタレクたちの抗争は「ゴッドファザー」のギャングの抗争を見ているようだった。

 あるいは、オマールと警察署長の会話に出てくる「スパイダーマン」というセリフ。これもアメリカナイズされたイスラエルの側面がよく出ている。
 しかも、このシーンは、それまで冷血漢だった警察署長の私生活(女房に頭が上がらない)が少しだけ判明し、彼に対して幾ばくかの親近感が芽生えてくる。思わずクスリときてしまうようなユーモラスな場面だった。

 ハニ・アブ・アサド監督の演出は、「パラダイス・ナウ」の頃に比べると格段の進歩を遂げていると思った。オマールと秘密警察の追跡劇におけるスピード感溢れるカメラワークなどは、ハリウッド映画顔負けの迫力である。色々と工夫の足りない所もあるが、低予算のインディペンデント映画であることを考えれば十分の迫力であろう。

 ただ、強いて言えば、似たようなシチュエーションをルーティーンさせてしまったことで、若干退屈に感じる個所がある。意図して敢えてやっているのかもしれないが、個人的にはこのあたりはもう少しバリエーションが欲しいと思った。

 クライマックスからラストにかけてのツイストは申し分ない。ナディアの告白を聞いたオマールの葛藤。その後の”決断”。このあたりには、イスラエルとパレスチナの狭間で苦しむ人々の苦悩が‥。更には、相互不信に陥る人間の弱さ、愚かさ、そして口惜しさが見事に凝縮されていると思った。この強烈なラストには胸打たれた。
[ 2016/06/13 01:00 ] ジャンルロマンス | TB(0) | CM(0)

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