見ていてこれほど疲れる映画というのもここ最近では珍しい。もちろん誉め言葉であるが。
「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 」(2007日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 学生達が過激な運動にのめり込んでいった1960年代。しかし、時の流れと共にその活動も縮小の一途を辿っていった。1971年、同志が次々と逮捕される中、追いつめられた赤軍派のメンバー森恒夫は革左派と共闘し連合赤軍を結成する。来るべき武力闘争に備え彼等は山岳ベースで訓練を開始した。派内の締め付けはやがて”総括”と呼ばれるリンチ行為にエスカレートしていく。
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(レビュー) 連合赤軍が結成された1971年といえば、学生運動が下火になり始めていた頃である。ここで描かれているような自滅の道は避けられない運命だったのかもしれない。この映画は学生運動の終点とも言うべきあさま山荘事件に至るまでの経緯を、事実に基づいて描いた作品だ。
監督はポルノ映画出身にして社会派的な問題作を撮り上げる鬼才若松孝二。
実は、俺にとって氏の作品は今回が初めてだった。雑誌の記事や評などから”過激なオヤジ”という印象を勝手に持っていたのだが、この映画を見ると「実録」と名がついているとおり意外に冷静で客観的な作りだったので驚いた。しかし、ここまで連合赤軍を正面から描いたという意味ではインパクトがあったし、何より190分の長丁場をひたすらパワフルに押し切った所に彼の“ひるまない”作家性が確認できる。
中盤以降のリンチ描写が凄まじい。中でも、坂井真紀演じる遠山の末路は悲惨この上なく、見ていて辛いものがあった。
同様のシチュエーションを題材にした作品で「鬼畜大宴会」(1997日)というインディペンデント映画が過去にあった。あそこまでの衝撃は無いにしろ、本作にも異様な緊張感と悲壮感が漂う。もっとも、「鬼畜大宴会」は見世物小屋的な主旨が多分に入っていたが、本作は「おそらくはこうだったのだろう」というリアルズムに拠った所で勝負をしているので似て非なる作品である。
追いつめられた連合赤軍を見て改めて思うのだが、こうした切羽詰った状況において人がいかに自分の意志を保持することが出来るのか?その難しさについて深く考えさせられた。イデオロギーという盾を振りかざすことで本来の理想は捻じ曲げられ、人々は成す術も無く狂っていってしまう。カルト宗教にも同様のことが言えるが、恐怖による支配が組織を維持する一番手っ取り早い方法であることは確かだ。しかし、手っ取り早い分、支配力は貧弱で常に崩壊の危機を孕んでいる。恐怖政治が長続きしないことは歴史が証明している。
このドラマを敢えて今描いたことの意義。それは、現代社会に対する一つの証憑ではないだろうか。
最後の少年の「勇気が無かった!」というセリフに感銘を受けた。
正直、トータルとして見た場合、所々で作りの甘さが露呈してしまっているのは否めない。また、演技がチグハグな個所が幾つか見られ、決して完成度が高い作品とは言い難い。とはいえ、これらの欠点を凌駕するほどの圧倒的パワー。これにはひれ伏すしかない。
実録・連合赤軍 あさま山荘への道程@映画生活